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2007年10月 9日 (火)

Computerminology

新しいテクノロジーは新しいボキャブラリーを生む。

そのテクノロジーが大規模なものであれば、生まれてくる言葉も大量になる。たとえば自動車…この20世紀を代表するテクノロジーは実に様々な言葉を生み出した。アンダーステア、キャブレター、クランクシャフト、車載コンピュータ、車台、前輪駆動、ターボチャージャー、ドライバビリティー、燃費、パワーウインドウ、パワーステアリング、ベルトテンショナー、モデルチェンジ、四輪駆動、DOHC…取り上げていけば際限がない。因みに、現在自動車関連の事典としては最も大型の『大車林』のエントリー数は約1万に上る。

ただ自動車はテクノロジーとして見た場合、それ以前にあった馬車の動力が馬から内燃機関に代わっただけで、まったく新しいコンセプトとは言いきれないところがある。そのことは言葉の面にも現れていて、クルマに関する英語表現には馬車の時代から引き継がれたものが多い。代表的なのは「ヘッドランプ」や「テールランプ」など「ランプ」を用いる表現だ。馬車に付ける照明具として文字通り「ランプ」を使用していた名残である。欧米の自動車メーカーの中には「ランプ」という語は現在のクルマには不適切だとして、すべて「ライト」に統一している会社もある。

クルマに関係する英語表現には面白いものがある。たとえば“pull aside”―これは「クルマを道の端に寄せる」といった意味だが、御者が手綱を引いて馬をコントロールしながら、道の端に馬車を寄せた動作に由来する。また“To ride shotgun”という言い方があり、こちらは「(車の)助手席に乗る」という意味だが、駅馬車の時代、強盗から客や荷物を守るため、ショットガンを持った助手が御者の横に乗ったことから生じた表現である。

ところで20世紀にはもう一つ、自動車同様、きわめて重要なテクノロジーが登場した。コンピュータである。自動車と違い、コンピュータは新しいテクノロジーである。そのコンピュータからも当然多くの言葉が生まれている。

だが、コンピュータに関しては新たに作られた言葉は多くはないようだ。そうした数少ない新語にモデム、オンライン、ソフトウェアなどがある。オンラインという語については、“send the message online”のように副詞として使ったところ、米国人に間違いだと指摘された経験がある。かつては形容詞としてのみ使われ、しかも“on-line”と表記しなければならなかった。モデムは“MOdulator-DEModulator”の略で、ほとんど使われていないが「変復調装置」という日本語表現も存在する。“software”という語は手元にある中では最も古い1969年版コンサイス英和辞典には載っていない。いつごろから使われ出したのか興味のあるところだ。

コンピュータ関連の言語現象の代表格といえば、ユーザ、プリンタ、モニタ、サーバなど、語尾の長音符を省略する表記方法だろう。これは、メモリーがまだ高価であった時代、保存するデータ量を極力減らすために省くようになったのが起源だといわれている。英語にも、“WordPerfect”“PostScript”のようにスペースなしに単語をつなげる表記方法がある。これもメモリーを節約するための方便だった。

コンピュータ用語の中で圧倒的に多いのが従来からある語や表現を別の意味で用いる転用である。ウイルス、クライアント、ディレクトリ、バグ、プロトコル、マウス・・・。誤解を恐れずに言えば、コンピュータに関して使われている語の大半が以前からあった言葉を借用し、新しい意味を与えられ使われている。コンピュータ技術の進歩があまりに速いため、時間をかけて新しい言葉を作り上げていく余裕がなく、既存の語を利用せざるを得ないからだと思われる。

ドッグイヤー(最近では「マウスイヤー」とも言うようだ)で進化するといわれるコンピュータテクノロジーの世界。いきおい語彙の方もそれに伴い活発な新陳代謝を繰り返している。以前よく目にした言葉がまったく使われなくなることも珍しくない。その一方で新しい言葉も生み出されてくる。而してコンピュータ用語辞典は年々その厚さを増していく。

(この文章は翻訳者ネットワーク "Amelia" "800字エッセイ" への投稿を一部修正したものです。)

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