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2008年5月 6日 (火)

中国の焦燥

チベット亡命政府の代表と中国政府との協議は、当初3日間程度と言われていたにもかかわらず5月4日のわずか1日で終了。今後も話し合いを続けてゆくことで合意はしたが、次回協議の具体的日程は決まっていない

チベット亡命政府のサムドン・リンポチェ首席大臣が語ったところによれば、話合いの継続では合意したものの、「励みになるような内容は多くはなかった」(朝日新聞5月6日朝刊)とのことである。

ここで気になるのが、はたして中国政府に話合いを継続する意志が本当にあるのかということ。今中国にとっての最優先事項は北京五輪を成功させることである。世界中を回った聖火リレーは、結局フランス、イギリス以上の混乱は起こらず、既に中国国内に入っている。残る懸念はチベット・ラサとエベレストでの聖火リレーだろうが、おそらく軍・警察の総力を挙げた警備で乗り切るだろう。チベット域内での反政府運動も力尽くで抑え込んでいる。問題は国際的世論である。

それを牽制し、抑止するためのポーズ―今回協議に応じたのはいわば五輪完了までの時間稼ぎではないかという思いが払拭できない。それと言うのも、チベットが中国にとってきわめて重要な天然資源の供給源であり、今やチベットなしでは中国の国家経営には非常に大きな支障を生じるからである。

以前、ダライ・ラマ14世の年齢の問題からチベット問題には時間との戦いという側面があると述べたが、時間に追われているのは中国もまた同様で、急激な経済成長に伴う国民生活の向上は、エネルギー、食物、水などの資源消費の飛躍的増加に結び付く。今はまだ低い水準にある農村部にまで経済成長の影響が波及してゆくようになれば、天然資源の需要は現在の数倍にも達するという試算もある。たとえば水の場合、中国の人口は世界全体の20%に相当するが、中国にある淡水は7%に過ぎない。国内需要を賄おうとすれば自前の資源は一切失うことが許されない。それゆえ中国がチベットを手放すことはないだろうし、だからこそ現実的な考え方をするダライ・ラマ14世は「独立」を訴えず、「自治」を求めているのだと思う。

時間に追われているのは爆発的な経済成長だけが理由ではない。現在高度経済成長を謳歌し、多くの富裕層を生み出している中国だが、あと7年あまりもすると労働人口の減少に転じる。高度経済成長では日本という前例があるが、その日本でも高度成長期から人口減少までは長いタイムギャップがあった。しかし中国の場合、このままゆけば高度成長の真っ只中で労働人口が減少するという、これまでどこの国も経験したことのない未曾有のジレンマに遭遇する。加えるに、13億という膨大な数の国民がいる。ひとつ舵取りを誤れば修正は不可能である。そうした状況を考えれば、国家経営の責務を担う中国首脳部に一種の焦燥感が生まれてもおかしくはない。

Photo_3そのためか今あの国は遮二無二前へ前へと進み、足元を見つめるゆとりを失っている感がある。そうした中国の現状を、今月号(08年5月号)の“ナショナルジオグラフィック”が特集している。この雑誌の特長である鮮やかな写真などから現状を知るにつれ、またチベット問題をめぐる強引な姿勢や、あの聖火リレーをめぐって世界各地で見られた若い世代のヒステリックとも言える行動を思うと、現在はまだ上り坂にあるからよいが、中国が“下り坂”に差し掛かったとき、どんなことが起こるか―大きな不安を感じる。

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