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2008年8月26日 (火)

五輪とサッカー

今回の五輪で気になったことの一つに、欧州を中心とするサッカークラブに所属選手の五輪派遣を拒否する動きが見られたことが挙げられる。

この問題、結構根深く、また大きな波紋を広げる可能性があり、“Library”の方でじっくりと取り上げたいが、いろいろと事情もありとりあえずこちらにメモしておく。

この問題の背景には(男子の)サッカー界が持つ独自の事情がある。それは、オリンピックをも上回る規模・人気を誇り、FIFA自身が「最高峰」と位置付けるFIFAワールドカップという大会の存在である。

オリンピック大会がアマチュアの祭典であった時代は大きな問題ではなかったが、IOCが五輪のオープン化を進め、アマ・プロを問わず最高の競技大会と位置付けるようになったことから、プロ>アマという、実力面、人気面で明確なヒエラルキーが出来上がっていたサッカー界(FIFA)のシステムとの矛盾が表面化するようになった。

その矛盾を回避するために採用されたのが、五輪サッカーに設けられた「23歳以下」という選手の出場資格制限である。FIFAには、年齢制限のないいわゆる「ワールドカップ」のほかに、17歳以下の選手だけが出場できるFIFA U17ワールドカップ、同じく20歳以下のFIFA U20ワールドカップがあり、五輪はいわば“U23ワールドカップ”ということができる。

しかしそれでは「最高の競技大会」を目指すIOCとしては大いに不満であり、その結果FIFAとIOCとの妥協の産物として五輪サッカーだけに「オーバーエイジ」という制度が設けられ、1チーム3人まで制限年齢を越えた選手を起用することができることになった。

ところが近年、夏季オリンピック大会は8月を中心に開催されるようになってきており(この開催時期にもいろいろと生臭い背景があるが今回は割愛)、ちょうど欧州各国のシーズン開始と重なる。さらには五輪と同じ年には、UEFA欧州選手権が開催されるということもあり、選手の疲労・故障を心配するクラブ側が所属選手の五輪出場に難色を示す事態となったわけである。

しかも今回はスポーツ仲裁裁判所(CAS)が、クラブは五輪サッカーチームに召集された所属選手の派遣を拒否できるという裁定を下し、スペインのFCバルセロナは、所属するメッシ(アルゼンチン代表)の派遣を認めなかった(後に、FIFAとの協議で派遣に応じた)。

この経緯からも明らかなように、サッカーと五輪の間にはいくつもの“ダブルスタンダード”が輻輳しており、オリンピック大会を最高の大会とする他のスポーツ競技とは事情が異なっていて、今回のCASの裁定を盾に各クラブが所属選手の派遣を渋るようになれば、五輪サッカーは成り立たなくなる。

同じように“最高レベルの選手たち”が参加しない野球のように、スポーツとして世界的人気がそれほど高くない競技であれば、IOCもばっさりと切り捨てることができるが(次回ロンドン大会で野球は実施されない)、“地球で最高の人気を誇る”サッカーを外すことはできない。

FIFAのブラッター会長は、ロンドン大会から五輪サッカーをFIFAの主催として行うという「解決策」を発表したが、それではオリンピック憲章に抵触することになるだろう。

とりあえず今回は出場選手に大きなトラブルもなく、またアルゼンチンという実力のあるチームが優勝したことで大会としてのメンツも保たれた。だが、常打ち興行(リーグ戦、カップ戦など)により利益を求めるクラブと、大きな収入源として五輪との関係を維持したいFIFA、最大の人気競技を失いたくないIOC ― 三者三様の利害を誰もが納得するように成り立たせることは至難の業に思える(このほかに“テレビ”という利害関係者も存在するが、そこまで話を広げるとメモでは納まらなくなるのでこちらも割愛する)。また、観客や選手という最大の利害関係者を無視した、クラブ、FIFA、IOC間の妥協で解決が図られる事態だけは願い下げである。

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サッカー」カテゴリの記事

コメント

サッカーには夢中のフランス人やスペイン人がオリンピックのサッカーに盛り上がらなかったので首をかしげたら、シーズンに備えて最終調整のこの時期に、一流選手は五輪に参加しないと説明してくれました。報酬も全然違うとか。本人がでたくても、雇用主が許さないなど、いろいろな理由があるのですね。
カナダ選手も帰国しました。終わった後、興奮し終わった後の落差が選手に及ぼす影響は多大だと、スポーツ心理学の医者がラジオで語っていました。
金銭やら心理やら。競技する選手を見て単純に感動していた時代がなつかしいですね。

投稿: pompon | 2008年8月27日 (水) 08時11分

アジア>アフリカ>中南米>北米>欧州

きわめて大雑把ですが、五輪男子サッカーに対する熱心さはこんな感じではないでしょうか。またよく指摘されることですが、日本人はサッカーのみならず、総じて五輪に対する関心が高いようです。
本番で実力を発揮できない日本人選手が多いのは、国民の関心が高い分、それをプレッシャーに感じてしまうからでしょうね。

投稿: Jack | 2008年8月27日 (水) 17時31分

Jackさん こんばんは、
今日、モントリオールは晴れてましたが、日陰は寒かったです。もうそろそろ秋の声です。

> アジア>アフリカ>中南米>北米>欧州

う~ん、鋭いですね。開催国がアジアでしたから、一番はうなずけます。アフリカと中南米はどっちでしょうね。アフリカはテレビのないところも多そうです。中南米は何にしても熱くなる人が多いです。北米は、もともとサッカーにあまり興味ないと思います。南の隣国は、アメフト、バスケット、野球と他の競技がありますし、カナダはホッケーかなあ。欧州からの移民と訪問者はちょっと気になるようですね。

> 国民の関心が高い分、それをプレッシャーに感じてしまう

国民の関心の高さは全然違いますね。日本人は一つになりやすいのが、国民性かもしれません。

五輪も終わると話題にならなくなります。マスコミはもう米大統領選ばっかりです。


投稿: pompon | 2008年8月28日 (木) 09時54分

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