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2008年10月22日 (水)

将棋:渡辺竜王の感想から

パリでの対局を終え、昨日(08年10月21日)帰国した渡辺明竜王は、その日のうちにブログに「第21期竜王戦七番勝負第1局」と題するエントリーを書いた。全日程1週間の旅行、慣れぬ異国での2日間の対局、12時間に及ぶフライトなどで疲れていたであろうに、この律儀さには頭が下がる。

さて、その自戦感想に「▲2三角を打つ時点で『△6四角の局面になれば▲5六桂か▲4五桂打のどちらかで攻めが繋がるのだろう』と思っていたのですがいざ考えてみると、どちらもたいした攻めにはなりません」とある。

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「▲2三角を打つ時点」とは上図の局面(53手目)である。その直前に後手羽生は△6五歩(52手目)と反発している。「実戦の△6六歩ならば△6四角までは一本道」と渡辺は言う。つまり、上図から△2三同金▲同飛成と進め、次の56手目からの

        △6六歩
▲3三竜   △6七歩成
▲同金直  △6九角打
▲6八金引 △4七角成
▲4三金打 △6四角打(図2)

という9手は1個の“分節”であり、途中まぎれの余地はない(またはほとんどない)ということだ。

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この局面で渡辺は「▲5六桂か▲4五桂打のどちらかで攻めが繋がるのだろう」と思っていたのだが、実際に△6四角打(64手目)と指されてみると、「どちらもたいした攻めにはなりません」。

一方、△6五歩と突いたとき、当然羽生も図2の局面を思い描いたのだが、羽生はそこからさらに読み進め、先手に有効な継続手がないことを読み切っていたのだ。

羽生と対戦した棋士がよく口にするのが「驚くほど先まで読んでいる」ということ。こちらが読みを停止して、形勢判断を下した先を羽生はさらに読んでいることがあるという意味だ。

森内俊之九段も初めて名人戦で羽生と対戦したときの感想戦で、「終盤、詰む詰まないの局面の中の50手くらい先に現れる変化で、自分(森内自身の意)の間違いを指摘されてすごいなと思ったことがある。そこまで読んでいるのかと思った」(『イメージと読みの将棋観』)と述べている。

53手目▲2三角を打ったとき、渡辺は図2の局面を想定して「先手良し」ないし「指せる」と判断したのに対し、羽生は「本当に先手有利なのだろうか」とさらに先を読み、「後手指せる」と判断して、先手の意を受け入れてこの図2の局面まで指し進めた。これが升田幸三が「踏み込み」と呼んだものではないだろうか。

先ほど“分節”という言葉を使った。将棋には、数手から時に20手近くに及ぶ必然的な指し手の組合せがある。今回の対局で言えば渡辺が「一本道」といった56手目△6六歩から64手目△6四角打までがその“分節”である(余談だが、将棋が強くなるにつれて、より長い“分節”を読むことができるようになる。この9手1組の“分節”もプロだから“必然”の指し手なので、われわれ素人にはとても読みきれるものではない)。升田の言う「踏み込み」とは、この分節を信じない、或いは「これにて先手良し」の局面を疑ってかかることではないだろうか。

▲2三角を打つとき、渡辺は11手後に現出する図2の局面を「先手良し」と判断し、羽生はそうは思わなかった。それが大局観である。感想戦で大山康晴が口癖のように言ったのが、「ここでは、あなた(対戦相手)が考えているほど(相手にとって)形勢はよくなかったんですよ」という言葉。これは大山の大局観の的確さを如実に物語っている。

大山のその「大局観」と升田の「踏み込み」とを併せ持っているのが羽生であり、2日制七番勝負という大舞台で初めて対峙した渡辺はそのことを「1局指してみて課題も見えた」と肌で実感したのだろう。

果たしてトップレベルにいるプロ棋士が課題に気付いたとき、即座に対応できるものなのか私には分からない。が、対応できなければ“先はない”のであり、若い渡辺には対応できる柔軟さがあると信じる。

第2局、渡辺竜王がどのような“対応ぶり”を見せるか楽しみである。

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