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2009年3月21日 (土)

「K先生御机下」

「名医」と言われる医者の診察を受けた。生まれて初めての経験である。

●不整脈
数年前から時々不整脈があった。近隣の病院2ヶ所で心電図や血液検査などひと通りの検査は受けたが、どちらの病院でもはっきりとした診断がつかず、また詳しい説明もなかった。それが3年ほど前のこと。

その不整脈が先日(09年2月14日)突然ぶり返した。その日、関東地方は異様に暖かいバレンタインデーとなり、道行く人の中には半袖やTシャツ姿も見られるほど気温が高く、そのせいで動悸が激しくなったのだろうかと思った。

ところが、それまでの不整脈は長くても20分ほどでおさまったのが、その日は断続的に最長で2時間近く続いた。加えて、昨年(08年)12月の健康診断で生まれて初めて「血圧が高め」と言われ、そのことも心に引っかかっていたので、この際「名医」と言われる医者の診察を受けてみようと思い立った。

●紹介状
ネットで検索すると日本全国で10名前後の医者の名前が挙がってきた。その中から、治療法の特徴や診療方針、家からの距離等を考え東京S病院のK医師に診てもらおうと決めた。電話で確認すると、「基本的には紹介状が必要で、紹介状がない場合は予約を取るのにも時間がかかる」と言われた。

そこで、これまでかかっていた病院に紹介状をもらいに行くことにした。これは少々勇気の要ることである。「あなたのところで長い間診てもらったが納得できないので、他の医者に診てもらいたい。ついては、その医者への紹介状を書いてほしい」―これが「紹介状をもらう」ということの意味である。だが、事は命にもかかわりかねないことであり、意を決して病院に向かった。

幸いと言うべきか、その日は私がかかっていた医師ではなく、別の人が担当だったので、症状を説明した後、単刀直入に「別の病院の医師に診てもらいたいので、紹介状を書いてもらいたい」旨を伝えた。その医師は一瞬表情を変えたが、直ぐに笑みを取り戻し、「分かりました。ただし、私はあなたを診察したことがないので紹介状を書けません。ですので、これまであなたを診ていたN先生に伝え、紹介状を書いてもらいましょう」ということになった。

診察室を出ると看護師が追いかけてきて、「紹介状をもらうのは悪いことじゃありませんからね。出来上がったら電話しますので取りに来てください」。私がその病院をいつも利用しているのは、医師よりも看護師にそうした細やかな心遣いをしてくれる人がいるからである。

●「東京S病院 K先生 御机下」
これが紹介状の封筒の表書きである。封筒の中には、それまで行った検査の要約と紹介状などが入っていた。

「御机下」(「おんきか」または「ごきか」)とは、手紙の宛名に添える脇付けで、手紙を直接渡すことが憚られるので、机の下にでも置かせていただくといった意味。高貴の人に直接呼びかけるのが憚られるので「陛下」(意味は「階段の下」)などという尊称を使うのに通じる心理作用から生じた言い方と言えるだろう。

●外来診療
2日後に紹介状が出来上がり、その日のうちに東京S病院に電話をし「紹介状があるので予約を取りたい」と言うと、今だと最も早くて3週間後になるとの答え。それではあまりに遠すぎる。すると電話口の女性が、「予約なしでお出でになりますか」と尋く。そんなことが可能なのかと質問すると、「予約の患者さんが優先となりますが、その合間に医師の判断で予約なしの人を診ることがあります。また、合間にできなくても、予約患者の診察がすべて終わった後であれば診てもらえます」との返事。翌週の水曜日に行くことに決めた。

●診察
当日はあいにくの雨。朝7時半に家を出て、病院に到着したのが9時少し過ぎ。直ぐに外来受付で手続きをする。予約ではないが、その日私が来ることは外来受付にも伝わっていて、「今日の予約なしはあなただけだから少しは早く診てもらえるかもしれない」とのこと。

手続きを済ませ、循環器内科外来待合の椅子に坐ると、直ぐに看護師が来て、レントゲンと心電図検査を先に受けるよう指示される。それが終って循環器内科外来待合に戻ったのが10時。受付の女性の言葉もあり、1時間ぐらいで診てもらえるかと思ったが、結局診察室に呼ばれたのは12時近く。

K医師は白髪まじりの痩身の男性。年齢は50代前半だろうか。顔は感染防止用のマスクを着けているためによく分からない(その病院では診療スタッフのほぼ全員がマスクを着用していた)。穏やかな話し方の人で、私の話をメモを取りながら静かに聞いてくれた。

・数年前から不整脈があること
・不整脈が起こるきっかけが分からないこと
・既に診察を受けたが、はっきりとした病名は聞かされていないこと
・10日ほど前に初めて2時間近く不整脈が続いたこと
・昨年12月に初めて血圧が高いと指摘され、それがために少々不安が大きくなったこと

などを伝える。医師からは家族・血縁者の病歴等を尋ねられ、触診を受ける。血圧も測ったが、きわめて正常な数値。直前のレントゲンと心電図検査の結果を見ながら、

・不整脈自体は決してめずらしいことではないし、危険でない場合もある。
・問題はその原因である。
・これまで診断がつかなかったということなので、考えられるあらゆる原因について調べることが必要。

といったことを静かな口調で説明してくれた。診察室を出たのは入室から40分後のことだった。

●検査
血液検査では、採った血液を入れる容器が10本。数の多さに驚いて尋ねると、看護師は笑いながら「確かに多い方ですね」。

ほかに超音波エコーを取り、筋肉の量(体重比)や体液の分布を調べ、ホルター心電図という体に付けて24時間波形を記録するポータブル型の心電図を取り付けて帰った(ホルター心電図は翌日病院に行き、外してもらった)。翌週の金曜日はLP検査とトレッドミルを使っての運動負荷心電図も取った。

●検査結果
検査結果を聞きに行ったのは、最初の診察から2週間後のこと。このときはK医師ではなく、別のA医師が担当。若い先生だったが、説明はてきぱきとして分かりやすい。

診断結果は「発作性心房細動」というものだった。まず心臓の構造を簡単に図示してくれて、心房と心室の違いを説明し、心房では1分間に300~400回もの細動が起こることがあるが、それがすべて心室に伝わらない仕組みになっている。まれに心房細動がそのまま心室に伝わるとそれが「心室細動」となり、こちらは命取りになりかねない(参照)。

●原因
細動が起こる主な原因として考えられるのは以下の4つ。

(1)心筋梗塞
(2)心臓弁膜症
(3)甲状腺機能障害
(4)不明

で、私の場合は(4)の「不明」。「不明ですかぁ?」という私の声が不満気に聞こえたのだろうか、A医師は苦笑いを浮かべ(この先生もマスクをしていたが、少し下げていたので表情が読み取れた)、「ええ、まあ、今の医学では分からないということで、ご理解ください」。

●治療
治療法には大きく3種類あり、

(1)切開手術
(2)カテーテル手術
(3)抗不整脈剤

症状、頻度などから判断して、私の場合は(3)が適切だろうとA医師。私も手術を受けるほどではないと思い、迷わず(3)を選択した。

●これから
それから10日あまりが経ったが、今のところ抗不整脈剤を使用したことはない。不整脈もほんの数秒から10数秒程度のものが2度起きた程度で、大きなものは発生していない。

現代医学でも原因が不明であるという不安はあるが、「心房細動は6時間以上続くなら心配ですが、あなたの場合のように短いものは心配ありません」という医師の言葉を信じたい。「ただしこれから先、徐々にでも継続時間が長くなって行ったり、動悸が激しくて苦しくなるようだったら、なるべく早く診察を受けてください」とアドバイスされた。

●大先生
診察室を出る間際、もう一つ質問をしてみた。「どうして今回はK先生ではなく、A先生になったのですか」

「あの先生は多くの患者を受け持っているので、全員を毎回診るわけじゃないんです。あなたのような、特別な問題があるとは考えられない患者さんは、だいたい1回だけ診察したら、あとは僕らに任されることになります」との答えだった。

きっとこれは「特別な問題がない」ということで喜ぶべきことだったのだろうが、できれば2回目もK先生に診てもらいたかったというのが率直な思いである。ただし、診断が出たことで長年もやもやとしていたものが多少すっきりしたことは間違いない。

●次回の診察は4月になってからで、またA医師が担当である。

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コメント

> 今の医学では分からない

とはいえ、大事ではなさそうです。よかった、よかった(o^-^o)
日本の医療制度はすごいというか、名医でも予約なしの方を診れる余裕を入れてあるのですね。
ケベックでは、紹介があっても6ヶ月から1年待たされます。

投稿: pompon | 2009年3月21日 (土) 18時51分

「御机下」は初めて聞きました。ATOKもIMEも変換してくれません。広辞苑にもマナー辞典にも載ってませんね。またひとつ賢くなりました。

投稿: pompon | 2009年3月22日 (日) 08時26分

>紹介があっても6ヶ月から1年待たされます

日本でも一部の個人病院や保険診療を受け付けていない
医療施設ではだいぶ長い間待たされるケースがあるよう
ですが、さすがに1年というのは聞いたことがありません。

>「御机下」
「机下」(きか)で調べると出てくると思いますよ。

投稿: Jack | 2009年3月22日 (日) 15時43分

> 「机下」(きか)で調べると

出てきました!!! ありがとうございます。

投稿: pompon | 2009年3月22日 (日) 21時26分

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