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2009年4月 2日 (木)

将棋:後手が勝ち越す

日本将棋連盟の2008年度公式戦において後手番の勝ち数が先手番を上回った(参照)。

1967年に統計を取り始めて以来、41年目にして初めてのことだという。

持将棋および千日手で決着しなかった対局を除くと、2008年度(2008年4月1日~2009年3月31日)のプロの公式戦は2340局(09年3月31日の対局を含む)で、先手1164勝、後手1176勝と、後手が勝数で12上回った。勝率に直すと、先手0.497、後手0.503である。統計開始からの通算勝率は先手0.526と先手の方がリードしていた。

後手勝ち越しの理由として、羽生善治名人は「後手の作戦の幅が広がったこと」を挙げている。

「後手一手損角換り」を筆頭に、「4手目3三角」や「2手目3二飛」といった従来の常識では「無理筋」或いは「筋悪」と言われかねない戦法が登場し、また先手有利が定着していた「矢倉」でも後手の方から積極的に局面をリードして行く指し方が見られるなど、「後手側の創意工夫」(羽生名人)が功を奏するようになってきたのかもしれない。

将棋は先手番、後手番それぞれが初手から“最善手”を指し続ければ、先手勝利もしくは千日手になると予測されている。つまり後手の勝ち目はないということである。しかし、ここにきてプロ棋士たちの工夫で、その不利と言われる後手番の方がわずかなりといえど勝ち越したというのは、“勝負としての将棋”が決して理屈通りにおさまるものではないことを物語っている。

勝負事が興行として成り立つには、確定的部分と不確定要素とが適度に混ざり合っている必要がある。あまりに実力通りに勝敗が決まり、勝者がいつも同じでは面白みがないし、かと言って不確定要素が強く、勝敗はやってみなければ分からないというのでは丁半博打と同じで、見る者にとっては応援、肩入れといった“参加意識”の高揚を得ることが難しくなり、これも興行的には得策でない。

その意味で、理論的にはどうであれ、実績として“先手有利”ないし“後手に勝ち目なし”ということが確認されてしまうと、プロの将棋を見る者にとっては興趣がそがれることになり、またそれは興行主(将棋連盟)にとっても由々しき事態だろう。

そうしたことを敏感に感じ取って、プロ棋士たちが必死で考え後手勝率の向上に努めたということはないだろうが、一人ひとりが後手番での勝利をもぎ取ろうと努力した結果が上記のような数字になったものだと思う。

見る立場の我々にとっては、勝敗の行方が簡単には読めないという面白さが増したわけで、この傾向しばらくは続いてほしいものである。

参考に、2008年度(08年4月~09年3月)に指された7大公式戦の先後別勝敗を以下に挙げておく。この結果、皆さんはどう読み解かれるだろうか。

■第66期名人戦(08年4月~6月) 森内俊之名人-羽生善治二冠
 第1局 ▲森内-△羽生  ▲勝ち(急戦矢倉)
 第2局 ▲羽生-△森内  ▲勝ち(後手一手損角換り)
 第3局 ▲森内-△羽生  △勝ち(相掛かり)
 第4局 ▲羽生-△森内  ▲勝ち(後手一手損角換り)
 第5局 ▲森内-△羽生  ▲勝ち(相掛かり)
 第6局 ▲羽生-△森内  ▲勝ち(相掛かり)
         【結果】        先手5勝 後手1勝

■第79期棋聖戦(08年6月~7月) 佐藤康光棋聖-羽生善治名人
 第1局 ▲羽生-△佐藤  △勝ち(後手一手損角換り)
 第2局 ▲佐藤-△羽生  ▲勝ち(後手4手目3三角→四間飛車)
 第3局 ▲羽生-△佐藤  ▲勝ち(矢倉)
 第4局 ▲佐藤-△羽生  △勝ち(後手一手損角換り)
 第5局 ▲佐藤-△羽生  △勝ち(後手一手損角換り)
         【結果】        先手2勝 後手3勝

■第49期王位戦(08年7月~9月) 深浦康市王位-羽生善治名人
 第1局 ▲羽生-△深浦  ▲勝ち(後手一手損角換り)
 第2局 ▲深浦-△羽生  ▲勝ち(後手三間飛車)
 第3局 ▲羽生-△深浦  △勝ち(相掛かり)
 第4局 ▲深浦-△羽生  ▲勝ち(後手一手損角換り)
 第5局 ▲羽生-△深浦  ▲勝ち(矢倉)
 第6局 ▲深浦-△羽生  △勝ち(相居飛車)
 第7局 ▲羽生-△深浦  △勝ち(後手一手損角換り)
         【結果】        先手4勝 後手3勝

■第56期王座戦(08年9月) 羽生善治名人・王座-木村一基八段
 第1局 ▲羽生-△木村  ▲勝ち(角換り相掛かり)
 第2局 ▲木村-△羽生  △勝ち(矢倉)
 第3局 ▲羽生-△木村  ▲勝ち(矢倉)
         【結果】        先手2勝 後手1勝

■第21期竜王戦(08年10月~12月) 渡辺明竜王-羽生善治名人
 第1局 ▲渡辺-△羽生  △勝ち(後手一手損角換り)
 第2局 ▲羽生-△渡辺  ▲勝ち(矢倉)
 第3局 ▲渡辺-△羽生  △勝ち(後手一手損角換り)
 第4局 ▲羽生-△渡辺  △勝ち(相掛かり)
 第5局 ▲渡辺-△羽生  ▲勝ち(矢倉)
 第6局 ▲羽生-△渡辺  △勝ち(矢倉)
 第7局 ▲羽生-△渡辺  △勝ち(矢倉)
         【結果】        先手2勝 後手5勝

■第58期王将戦(09年1月~3月) 羽生善治王将・名人-深浦康市王位
 第1局 ▲深浦-△羽生  △勝ち(角換り)
 第2局 ▲羽生-△深浦  △勝ち(後手4手目3三角→四間飛車)
 第3局 ▲深浦-△羽生  ▲勝ち(ゴキゲン中飛車)
 第4局 ▲羽生-△深浦  ▲勝ち(後手一手損角換り)
 第5局 ▲深浦-△羽生  ▲勝ち(先手中飛車)
 第6局 ▲羽生-△深浦  ▲勝ち(後手4手目3三角→四間飛車)
 第7局 ▲深浦-△羽生  △勝ち(横歩取り後手8五飛)
         【結果】        先手4勝 後手3勝

■第34期棋王戦(09年2月~3月) 佐藤康光棋王-久保利明八段
 第1局 ▲佐藤-△久保  △勝ち(後手中飛車)
 第2局 ▲久保-△佐藤  ▲勝ち(先手三間飛車)
 第3局 ▲佐藤-△久保  ▲勝ち(ゴキゲン中飛車)
 第4局 ▲久保-△佐藤  △勝ち(先手四間飛車)
 第5局 ▲佐藤-△久保  △勝ち(ゴキゲン中飛車)
         【結果】        先手2勝 後手3勝

□7タイトル合計          先手21勝(勝率0.568) 後手16勝(同0.432)

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