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2009年5月17日 (日)

『シリコンバレーから将棋を観る』英語翻訳プロジェクトその後

以前取り上げた梅田望夫氏の著書『シリコンバレーから将棋を観る』の英訳文が先週(09年5月9日)公開された

全文を詳細に読んだわけではなく、「はじめに」と「第1章」を主に読んだだけだが、正直なところを言えば、あの訳文をさらにブラッシュアップするには相当の労力が必要になると思う。

翻訳の経験が少ない、ないしはまったくない若い人たち(平均年齢21歳)が短期間で訳し上げた結果なので、その点を考慮するとそこそこの出来ばえなのだけれど、逆に言えば、そうした点を“情状酌量”せずに読むと、(一生懸命取り組んだ人たちには厳しい言葉になるが)問題が少なくない。

たとえば用語の統一ができていない点が気になる。特に日本語固有の言葉の表記を明確に規定するべきだろう。「竜王」は「Ryuo」なのか「Ryuoh」なのか、それとも「Ryuou」なのか。しっかりと統一するべきだ。

それと将棋の知識が不足しているための訳語の選択ミスもある。「居飛車党」を「Ibisha [Static Rook] party」としているが、これで意味が通じるだろうか。ここは「主として居飛車戦法を好んで用いる者」と説明的に翻訳するのがよいのではないかと思う。

この「説明的翻訳」というのは、今回のようにきわめて日本的な内容を英訳するときには有効且つ必須の技術である。どう説明したらよいかについては、たとえば英語版百科事典などの記述方法が参考になる。また、講談社の『英文日本大辞典』は、日本的なものを英語で記述する際のお手本の宝庫と言える。

また将棋用語についてはネット上にも種々公開されており、それらを参考にまず日本語(将棋用語)の意味を理解してから翻訳に取り組んだ方がよいだろう。

おそらく翻訳に携わった人や修正を行った人は感じ取っているだろうが、無から有を作り出すという作業も大変なのだが、出来上がったものに手を加えるというのも決して簡単なことではない。

修正するというのは、程度の差はあれ、元の文を否定することであり、否定するにはそれなりの自信と裏付けが必要となる。言い換えるならば、修正をする者は通常、元の文を作った者よりも知識・技術の点で上回っていることが望ましい。

また、修正にもモチベーションが要る。私たちのように仕事で翻訳をしている者にとってはそれは通常報酬なのだが、今回のようなボランティアプロジェクトだと、翻訳者同様、修正する者も自らのモチベーションを見つけ出す必要がある。

それと、英語のネイティブスピーカーによる修正ということもあり得るだろうが、その場合は原文からの乖離に注意する必要がある。

私たちが日常手がけている翻訳でも、英訳では、出来上がった英文をネイティブスピーカーにチェックしてもらうのだが、ほとんどの場合、かれらは日本語を解さないため、原文(日本文)を見ずに訳文(英文)だけを読み、修正を加える。その際、訳文が分かりにくいとかれらは自分が持っている知識や論理に基づいて修正するため、極端な場合、原文と訳文がまったく逆の意味になってしまうことさえある。

英語ネイティブスピーカーによる修正については、その後の再確認が絶対に必要である。

さて訳文が公開されてから1週間が経過したが、このところ修正作業があまり進んでいないように思える。修正・編集のオープン化で、地球上にいて、ネットを使える人間であれば誰でも修正・編集はできるのだが、問題はさきほども言ったモチベーションである。62億人の中に、日本の将棋について書かれた英文に興味を持ち、修正を加えようという人間が果たしてどのくらいいるのか。

わたしも最初は、修正作業はどんどん進むのではないかと勝手に考えていたが、現状は決して楽観できないように思える。

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