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2009年6月13日 (土)

車内での会話

所用で東京に行った時のこと ― 帰りに乗った東海道線の車内で、もうかなり長い期間をかけて読んでいる本をできれば読み切ってしまおうと決め、ページを開いた。

ところが…

午後5時半発のその列車に男女3人組が乗り込んでくると、端っこの席に座っていた私を取り囲むように立った。男性は1人が50代、もう1人は40代半ば、女性も40代と思われる。私は本を読み続けようとした。
電車が出発した。すると私の真ん前に立った50代の男性が言った。

「中野君はどうよ」
「どういう意味ですか」とその隣に立つ女性。
「結婚相手ってこと」と50代男性。
「私のですか…」
「そう。彼、お金はあるよ」
「ありえないですよ」と女性。
「だったら高円寺さんは…」と、これは私の真横、ドアの前に立つ40代男性の質問。
「いやですよ」と、女性はそちらもやわらかい声で、しかし断固拒否する。
「今、うちで、年恰好からして該当するのは、その2人だね」と50代男性。
「いいです、結構です」と女性は笑いを含んだ声で応える。
その後は、女性がしばしば訪れているらしいハワイの話が中心となる。仕事がらみの話題も出てきた。また、フィリピン人の奥さんと別れた同僚や株取引で大失敗した人物など、3人が勤める職場の人たちが次々と登場してくる。
「ところで、品川さんはなんでこっちに引っ越してこないの」と40代男性が女性に質問した。「こっちに越してきた方が通勤なんか、うんと楽でしょ」
「その気はないですね」と品川さん(女性)が答える。どうやら品川さんは独身ながら一戸建ての家を所有しているらしい。
「△△△っていったっけ住んでるところ」
「ええ」
「どの辺なの」
「×××(ある有名な市の名前)の先よ」
「分かんないよねー」と40代男性が少々からかい気味に、「田園調布とかいうのなら、こだわるのも分かるけど、△△△でしょ。なんのこだわりがあるのよ」
「ま、そこには品川さんなりの思い入れがあるんだよ」と50代男性がフォローする。「でも、退職したらそういうところに住むのもいいよね」
「退職後のことも考えてるんだ」と40代男性。
「多少はね」と品川さん。
「部長はどうするんですか、退職後」と品川さんが尋ねる。
「俺は1年のうち、半年ぐらい海外で生活したいと思ってるよ」
「プーケットとか…」
「いや、案外バリがいいらしいよ」
「お金持ちはうらやましい」
「金なんかないよ。みんな、前の女房に持ってかれちゃったよ」どうやら部長(50代男性)はバツイチらしい。
「いや、持ってかれたわけじゃありませんよ。部長はそれで自由を手に入れたんですよ」と品川さん。
「だけどね、今の日本の法律って女性の味方だよ。田町君も気をつけた方がいいよ」
「だいじょうぶ、田町さんは愛妻家だから、ね」と今度は品川さんのフォロー。
「でも部長、マンションがあるじゃないですか」と田町さん(40代男性)の問いかけに、
「今住んでるのは賃貸だよ」と部長が答える。「品川さん、家の掃除を人に頼んでるんだって」と部長が話題を転じる。
「ええ、週に2回、シルバー派遣に頼んでます」
「時給制?」
「ええ」
「どれくらい?」
「1時間1,600円」
「それならぼくが行って、やってあげるよ」と部長が笑いながら言う。

その時電車が川崎に着き、3人は降りて行った。時刻は午後6時近く ― これからまだ仕事なのだろうか。離婚歴のある50代男性、独身の40代女性、どうやら円満な家庭があるらしい40代男性 ― ある意味、今の日本の典型的な職場模様ではある。そのうちの1人は私と同世代。会社勤めを続けていれば、きっと私も彼のようにきちんとスーツを着て、独身の後輩や部下の結婚についてちょっぴり心配をし、そう遠くない未来に迫った退職後を気にかけるようになっていたのだろう。

彼らの話を聞きながら、いつしか3人が勤める名前も知らない会社で、彼らと一緒に働いている自分を想像していた。気がつけば、膝の上に開いた本は東京駅を出たときと同じページのままだった。

【文中の名前はすべて仮名です。】

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コメント

> 日本の典型的な職場模様ではある

カナダでもそうかもしれません。オフィス勤めの方とか、安定した仕事をしている人は。時間給で、組合など従業員を守る組織がないところで仕事をしている人も多いのですが、やっぱり話の内容が違うようです。私も最初の職場にそのままいたら、そろそろ25年選手です。その時の経験があるから、このエントリーのお話を読んで電車に揺られながら話す人の様子が想像出来るのでしょうね。

投稿: pompon | 2009年6月16日 (火) 22時33分

電車の中で聞こえてくる会話ってけっこう面白いですよね。今回のように思わず
聞き入ってしまうこともしばしばあります。電車の中はわたしにとって貴重な
読書タイムなんですが、こういうことがあるので、電車の中でしか読まないことに
してる本がなかなか先に進みません^^

投稿: Jack | 2009年6月18日 (木) 00時10分

Jackさんは耳をダンボにして、つい会話に耳が行ったようですが、これは「他のお客様の迷惑になりますので、電車内では携帯をマナーモードに…」と同様に、若干迷惑とも限らないではないかと思ってしまいました。
こういう五十台くらいの上司と言うのが、上司にしたいタイプの典型なんでしょうか。
こんな印象を受けた私は、固すぎ?なのか…

投稿: billabong | 2009年6月18日 (木) 17時24分

>Jackさんは耳をダンボにして、つい会話に耳が行ったようですが

3人の会話に聞き入った理由は「部長」の声だったのです。声優にしても
おかしくないような、低めで幅のある良い声の人でした。

>上司にしたいタイプ

少なくとも声を聞いた限りでは「頼りになりそうな人」という印象を受けましたね。

投稿: Jack | 2009年6月18日 (木) 23時08分

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