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2009年7月 3日 (金)

翻訳者として見た「マイケルの遺言」

Michael_jackson_with_the_reagans

先日(09年6月25日)死去した歌手マイケル・ジャクソンの遺言状が公表されたとのことで、翻訳者としての職業意識からだろうか、いったいどのような文章表現・語彙が使われているのか知りたくなった(全文はこちら)。

マイケルの遺言状は全5ページ、8項、約900ワードで構成されている。

まず自分の身分(独身であること、子どもが3人いることなど)について述べた後、全財産をMICHAEL JACKSON FAMILY TRUSTとして信託した上で、遺言執行人として3人を指名している。

また遺言および信託において規定していること以外に相続するものはなく、さらには離婚した妻DEBORAH ROWEには一切遺産を残さないと明言している。

Mjそして最後に母KATHERINE JACKSONを3人の子どもの後見人に指名し、母KATHERINE JACKSONが後見人の役を果たせない場合、或いは果たす意志がない場合は、歌手のDIANA ROSSを後見人とすると記している(写真は母親を後見人に指名した遺言部分)。

全体を通して、まず法律の条文や契約書に使われる“堅苦しい表現”が多用されている点が目につく。具体的には、「hereof」、「hereby」など法律文書ではおなじみの語が使われている。

遺す金額が大きいこと(5億ドルとも9億ドルとも言われている)、周辺に多種多様な利害関係者がいること、家族関係が複雑なこと(父親を後見人から除外していることにうかがわれる)などからも、多義的に解釈されることがないよう厳密を期したゆえの表現・語彙なのだろう。

TRUST(信託)というのは日本でも「投資信託」などで耳慣れた言葉だが、「ある人(委託者)が別の人(受託者)に自らの財産を預け、その運用・管理から生じる利益を第三の人(受益者)に渡すための取決め」である。マイケルは自分の3人の子どもを受益者とした信託を組んだわけで、その詳細はこの遺言では触れていない。

また日本語の「~など」や「及びその他の~」に相当する表現として、「including, but not by way of limitation ~」というフレーズが使われているが、これは初めて見た。通常の文であればたとえば「cars, including A, B, and C」というように「including」を使い、また契約書などさらに厳密な表現を必要とするケースでは「cars, including but not limited to A, B, and C」或いは「including without limitation A, B, and C」とし、以下に列挙するもの以外をも包含すると明確に記述する。上記の「including, but not by way of limitation ~」はこれと同様の意味で用いられているが、いささか仰々しい表現である。

もう一つ興味を引かれたのが「ancillary administration」という表現。アメリカは州の独立性が強く、一つの州内に限定される犯罪などは基本的には州法に準拠して処理される。どうやら遺言の執行についても州法が適用されるようで、そのためこの遺言状の冒頭でマイケルも「I, MICHAEL JOSEPH JACKSON, a resident of the State of California, declare this to be my last Will, and …」とカリフォルニア州の住民として遺言する旨を宣誓している。

そこでカリフォルニア州外にある財産(不動産)については、州内の財産とは分離する必要があり、その管理を「ancillary administration」という。つまり「死亡した者がその居住州の外に所有していた財産の管理」である。そのための管理者が「ancillary administrator」である。

Photo最後に遺言人としてマイケルの署名があるが、通常ファンに求められて書くサイン(写真左)とは若干違うようで、普段は「Michael」とだけ書いていたが、公式文書にはフルネームで署名したということのようだ(写真中)。

なお、今回このエントリーを書くために調べていて、「遺言」を法律上は「いごん」と読むことを知った。

さて久しぶりに『スリラー』を聴くことにしよう。

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コメント

ジャックさんは「いささか仰々しい」との感想を持たれたincluding, but not by way of limitationについてですが、実は私共も最近、英語の遺言を書きました。その中に似た表現があったのを覚えています。including, but not limited toでした。
遺言のドラフトを書いた主人に上記の表現のことを聞いてみた所、「(何が含まれているのか、含まれていないのか)曖昧になる。遺言というのは、明瞭簡潔であることが第一。将来の紛争の種になるかも」と。
そんなことはないでしょうが、余り使われない言い方のようですね。
あの遺言は、マイケル・ジャクソンの弁護士が持っている鑑を利用して作成したものでしょうが、マイケルジャクソンはこの表現を「荘厳」に感じたかもしれません!!!
マイケル・ジャクソンは、マスコミをまだ暫く忙しくしてくれることでしょう。
私も、彼が本当にKing of Popにふさわしかった頃のThrillerを聴き、懐かしい思いになっています。

投稿: biillabong | 2009年7月 5日 (日) 13時40分

>弁護士が持っている鑑を利用して作成したもの

たぶんそうでしょう。ただマイケル・ジャクソンの場合、事情がかなり特殊かつ複雑だったでしょうから、オリジナルの箇所も少なくなかったとも思います。

>実は私共も最近、英語の遺言を書きました。

遺言状は作っておいて後悔はしないと思いますよ。また、ご主人が言われるようにはっきりとした内容のものがよいと私も思います。相続問題って、誰もが望まない結果に至ることがありますからね。

投稿: Jack | 2009年7月 6日 (月) 00時11分

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