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2009年8月 9日 (日)

浦上天主堂での賛美歌

ツアーの途中で立ち寄った長崎の浦上天主堂で、ソフィア少年少女合唱団の指揮者フリスト・ネジャルコフ氏が「ここで、原爆の犠牲者の人たちに歌をささげたい」と言い出した。

突然のことだったので無理なのではないかとは思ったが、とにかく事務所に行って尋ねてみることにした。こちらの事情説明を聞いていた職員の方は、「あ、そういうことでしたらかまいませんよ」といともあっさりと許可してくれた。

その旨を伝えると、ネジャルコフ氏はメンバーたち(10歳から16歳ぐらいまでの少年少女たち)に指示を与え、子どもたちはすばやく荷物をベンチにまとめて置くと、祭壇の前に整列した。その間、ネジャルコフ氏は「オルガンも使わせてほしいので、交渉してくれ」と言う。

再び事務所に行き、オルガン使用の件を申し出ると、「はい、分かりました」と、これまた直ぐに承諾してくれた。その職員と合唱団専属のピアニストの女性が2階にあるオルガンのところへ行った。職員の方が鍵を開けて説明を始めた。その様子に私ははっとした。ピアニストの女性は英語ができない。職員の方もブルガリア語は知らないだろう。どうしたらよいかと迷っていると、職員の日本語の説明にピアニストがうなづいている。さすがにプロである。言葉は通じなくとも、使い方を即座に理解し、楽器とは思えない複雑なスイッチ様のものをいくつか操作して鍵盤に指をかける。見事、音が出た。

その頃には、観光客など天主堂を訪れていた人たちも何ごとが始まるのかとベンチに坐り或いは思い思いの場所に立ち、事の成行きを見守っている。

ネジャルコフ氏がいつものように小さな笛のようなものを取り出し吹くと、団員たちがそれに合わせて声を発する。チューニングだ。それが終ると氏は一言も発することなく、ピアニストの方を振り向きもせず、両手を構える。団員たちも、さっと歌う姿勢を取る。

練習なしのぶっつけ本番―だが、いつものコンサートに優るとも劣らない美しいハーモニーが響く。

歌ったのは2曲で、1曲は聴いたことのある旋律だったが、もう1曲は初めて聴いた曲だった。共にタイトルは分からないが、おそらくどちらも賛美歌だったと思われる。

それまでの公演で、その子たちの歌は何回となく聞いていた。しかし、教会で歌われる歌にはコンサートで聞くのとは違う、歌われるべき場所で歌われた奥深い響きが感じられ、名も知らぬ曲に私は思わず涙を流してしまった。

わずか2曲、数分の出来事だったが、長崎の名を聞くたびによみがえる思い出である。

今日長崎は64回目の原爆の日を迎えた。長崎が人類最後の被爆地となることを祈る。

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