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2009年9月25日 (金)

スポーツにおける性別

先ごろ行われた陸上の世界選手権女子800メートルで優勝した南アフリカのキャスター・セメンヤ選手が両性具有らしいとの報道があった。

国際陸連が実施した検査では、「セメンヤには両性の身体的特徴が認められ、体内に睾丸があり、子宮と卵巣がなく、男性ホルモンのテストテロン数値が通常の女性の3倍以上も分泌されていることが判明した」(産経ニュース)とのことで、競技に関して言えば、筋力などの点でアドバンテージがあったということだろう。

こうした問題は古くからあり、両性具有であることが判明した場合の措置というのは当然決まっているのだと単純に考えていたが、その後の報道を見るとどうも事はそう簡単ではないようだ。今度の件に関して国際陸連は11月に開く理事会で最終処分を決定する予定らしい。

ところで、陸上女子の短・中距離種目には一つ大きな特徴がある。次を見ていただきたい。

陸上女子世界記録
100メートル:   10秒49 フローレンス・ジョイナー     1988年7月16日
100mハードル: 12秒21 ヨルダンカ・ドンコワ      1988年8月20日
200メートル:  21秒34 フローレンス・ジョイナー      1988年9月29日
400メートル:  47秒60 マリタ・コッホ            1985年10月6日
800メートル:  1分53秒28 ヤルミラ・クラトフビロワ  1983年7月26日

100メートルから800メートルまで、記録が作られた時期が1980年代に集中しているのである。オリンピックで行われる女子のトラック種目で1980年代に作られ、いまだに破られていない世界記録というのはほかにない。

では1980年代に何があったのか。なぜ女子の短・中距離種目の世界記録が1980年代に集中しているのか。答えは不明である。ただ一つ言明できるのは、その当時我々一般人が見ても「とても女性には見えない体格の選手」が多かったこと、世界トップクラスの選手の多くにドーピングの噂があったことである。その最たる例が1988年のソウルオリンピック男子100メートルで、当時の世界記録を破り1着でゴールしながら、ドーピングにより金メダルを剥奪されたベン・ジョンソンである。

また、同じソウル五輪で100メートルと200メートルを制し2冠に輝いたフローレンス・ジョイナーにもドーピングの噂は絶えなかった。彼女が記者会見に臨んだときだったと思うが、テレビカメラが顔をクローズアップでとらえると、その鼻の下にはうっすらとヒゲが生えていた。女子の短・中距離種目に世界記録が続出した1980年代には、そんな時代背景があった。

そうした80年代に作られた世界記録の中でも特に目につくのが800メートルの記録の古さである。現在陸上の世界記録としては最古のものであり、これより古い世界記録は瀬古利彦が25000mと30000mでマークした記録(共に1981年3月22日の同一レース)だけである。ただし、瀬古の記録はいわゆるオリンピック種目ではなく、レース自体がめったに行われないという事情を考慮すると、女子800メートルの記録の大きさがさらに鮮明になるだろう。今回セメンヤ選手が世界陸上で優勝した時のタイム1分55秒45でも、世界記録とは2秒以上の開きがある。

では、陸上競技中最古の記録を持つヤルミラ・クラトフビロワとはどんな選手だったのか。下の写真が現役時代のクラトフビロワである。

Kratochvilova_2

  

 

 

 

 

惚れぼれするほど見事な三角筋である。クロールを泳がせてもきっと速いだろう。クラトフビロワ選手が走ったレースをテレビで見たことがあるが、明らかに1人だけ体の厚み、幅が違っていて、率直に言えば、「女のなかまに男が1人」である。当時も、彼女の性別やドーピングに関してとかくの噂があったのは事実だが、結局詳しい検査は行われなかったと記憶している。

女性には過酷すぎるという指摘もあるほど800メートル競走というのはきついレースである。100メートルをほぼ14.4秒で走り続ける計算になるが、この100メートル14.4秒というのは無酸素運動の領域のスピードであるという。限界に近い無酸素運動を1分以上も続けることはできないため、当然有酸素運動でカバーすることになるわけだが、それがどれだけ苦しいものか―最後の100メートルぐらいは意識なしに走ってることさえあると聞いたことがある。

ところがそこに「男の筋力」というアドバンテージが加わると、事情は大きく違ってくる。現在の男子800メートルの世界記録は1分41秒11。クラトフビロワの世界記録1分53秒28と比較しても12秒以上速い。距離にすれば約100メートルの開きがある。

両性具有と言われているセメンヤの世界陸上優勝タイム1分55秒45を男子に置き換えたら、どの程度のレベルになるか。実は世界クラスは無論のこと、男子高校生にもまったく歯が立たない(現在の男子高校生日本記録は1分48秒50)。如何に「男の筋力」が強いかが分かる。男性ホルモンなどを人為的に摂取するドーピングが厳しく禁止されているにもかかわらず、後を絶たないのはこうした事実があるからだ。

既にドーピングに関しては厳しい規定があり、一定の成果を挙げていると思えるが、今回問題になった性別の件については、国際陸連はこれまで一貫した方針というものを規定していなかったようだ。だが女子選手のプライバシー/人権保護、競技の公正という点からも、また我々一般人が納得してレースを見ることができるようにするためにも、ここらで明確な指針を示す必要があるのではないだろうか。

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