« コスモスとヘリ | トップページ | 尖閣沖衝突事件ビデオ »

2010年11月 3日 (水)

将棋とコンピューター

今やコンピューターは生活の至るところに存在する。翻訳に関してはGoogleをはじめとしてネット上で無料で利用できるサービスも登場してきている。ただ、まだ「まともな訳文」ができるレベルには達しておらず、また原文の内容や構造が複雑な場合には意味をなさない文をひねり出してくるようだ。

その翻訳以外にもう一つ、個人的にコンピューターの進出が気になっている分野が将棋である。その将棋で先日、人間対コンピューターの戦いが行われたのはご存知の通りである。

だいぶ古びたネタになってしまったが、やはり取り上げておくべき話題と考え、以下簡単に感想をまとめておく。

まず「勝負事」として考えた場合、対戦した清水市代女流王将(対戦当時のタイトル)にとっては戦前における相手方の情報という点できわめて不公平な状態であったことは特記しておくべきだろう。

清水はプロであり、過去に膨大な数の対局を行いその棋譜が残されている。当然、コンピューター側はそのデータを入手し、事前に対策を練ることができる。実際、今回コンピューター「あから2010」が採用した「後手3三角戦法」(下図参照)は清水の将棋を解析した結果選ばれたものであり、厳密に言えばコンピューターが選んだのではなく、「あから2010」を開発した人間チームの選択であった。

Simizu_akara01

一方、清水の側からすると対戦相手の棋譜というものは存在しない状態だった。「あから2010」は既存の将棋ソフトの中から4強とも言ってよい、「激指」、「Bonanza」、「GPS将棋」、「YSS」というプログラムをそれぞれ走らせ、その「多数決」によって指し手を決定するという「合議制」を取り入れた。つまり「あから2010」と呼ばれるシステムは今回新たに作られたもので、過去(=棋譜)を持っていない。

勝負事において相手の情報があるとないとでは、たとえば力が拮抗した者同士であれば、情報を得た方が圧倒的に有利になることは火を見るより明らかである。その点、今回の対局は不公平であった。

次に将棋の内容についてだが、既にプロ棋士などの解析・解説も出ており、へぼの私が今更付け加えることもないのだが、少なからず気になる点があるのでそれを取り上げたい。

上図で先手の清水が▲3三同角成と角交換してさらに22手進んだのが下の局面である。

Simizu_akara02

この直前、先手は▲9八香と上がり、9九に玉将を入れて囲う「穴熊」の構想を明らかにした。それに対して後手の「あから2010」が△4四角と打って、先手の穴熊囲いを牽制した。この手に関して、当日解説を担当していた佐藤康光九段は即座に否定的な見解を述べたのだが、私には非常に厳しい手に見えた。

清水はこれに▲7七角打と対抗し、再び角交換となった。さらに進んで32手目、後手は再度△4四角と打った。それが下図である。

Simizu_akara03

結果的にこの角の睨みのため、先手玉は不利な戦いを強いられ、意図した穴熊囲いに入ることもできず、最終的に打ち取られてしまったのである(下がその投了局面)。

Simizu_akara05

さらにもう一点、今回の対局を見ていて痛感したのは、コンピューターには恐怖心がないという非常に大きなアドバンテージがあるということだ。下図を見てほしい。

Simizu_akara06

先手が8六に桂馬を打ったところである。これは、▲7四桂打からの寄せを狙った手であり、後手としてはおいそれと駒を渡すことができない状況である。仮に対戦しているのが清水と実力的に互角の人間であったなら、こんな手を指されたら「ふるえる」か、相当にプレッシャーを感じる局面ではある。自玉を守る手を考える可能性が高い。

しかし「あから2010」は違った。平然と△6九金(下図)と攻めてきたのである。

Simizu_akara07

これでは先手の方が「ふるえた」かも知れない。

以上のように、事前の準備段階を含め勝敗を競う環境に公平さが欠けていたことや、コンピューター特有の恐れやプレッシャーといった感情的負担を感じないという利点、さらに忌憚ないところを言えば清水自身の力が足りなかったことなどから、今回は「あから2010」の勝利となった。

プロ棋士対コンピューターの戦いの今後については、現時点では不透明な状態にある。当初は清水が負けた場合には男性プロ棋士が対戦するとの話だったのだが、日本将棋連盟の米長会長は清水のリターンマッチが妥当だとの発言をするようになった。少々姑息な感を否めないが、なにより今回の結果から考えるとリターンマッチは無意味だろう。対戦の後公開された「あから2010」のデータを見ると、用意されたハードウェアは処理能力の数%しか使っていなかったようであり、またソフトウェアの改良が進んで「実力」が底上げされたら、女流棋士では太刀打ちできなくなるのは確実だ。

さらに、人間対コンピューターの対局の位置付けも明確にする必要があるだろう。上述したように「勝負」として或いは「競技」として考えた場合、今のやり方ではあまりに不公平で、花試合(エキシビションマッチ)というべき状況にある。これを本当の意味での真剣勝負にするなら、たとえばソフトウェアを1つに限定したり、事前の研究では対戦相手の棋譜の使用を禁じたり、ハードウェアの筺体を1個に限るなど能力に何らかの制限を設けるといった「競技規定」が必要になるだろう。そのようにして競技としての公正さを確保すれば、勝負の行方に対する関心も高まり、正規のスポンサーが付くことも期待できる。

ただ、今の日本将棋連盟に、またプロ棋士たちにそこまで踏み込んで行く気概があるか ― 将棋の人間vsコンピューター戦が今後も開催されるか否かは、その点にかかっているだろう。

|

« コスモスとヘリ | トップページ | 尖閣沖衝突事件ビデオ »

将棋」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/220529/49924430

この記事へのトラックバック一覧です: 将棋とコンピューター:

« コスモスとヘリ | トップページ | 尖閣沖衝突事件ビデオ »