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2011年2月27日 (日)

軽薄な不正:京大入試問題の漏洩

今日は別の話題を用意していたが、今朝判明した、京都大学の入試問題が試験時間中にネットに投稿された事件のことを取り上げる。

この事件、腑に落ちないことが多い。

下記が「Yahoo! 知恵袋」に投稿された質問(京大の和文英訳問題)である。

次の文を英訳してください。

楽しいはずの海外旅行にもトラブルはつきものだ。たとえば、 悪天候や自然災害によって飛行機が欠航し、海外での滞在を延ばさなければならないことはさほど珍しいことではない。いかなる場合でも重要なのは、冷静に状況を判断し、当該地域についての知識や情報、さらに外国語運用能力を駆使しながら、目の前の問題を解決しようとする態度である。

長文でお手数おかけしますがよろしくお願いいたします。

(__)

これが試験開始からわずか7分後の26日(土)午前9時37分に「Yahoo! 知恵袋」に掲載された。まず投稿時刻から判断して、投稿は明確な「犯意」に基づいて行われたと推測できる。試験問題に必死で取り組み、自力で問題を解こうと懸命に努力したもののどうしても解けなかったため、藁をもつかむ思いで助けを求めたのではない。

次にどのように上記のテキストをアップしたのかである。如何に携帯電話の使い方に長けている昨今の若者でも、大学の入試会場で(おそらくはブラインドタッチで)携帯電話を操り、上の文を打ち込むにはそれなりの時間を必要とするはずだ。その間、よくぞ監督官の目に止まらなかったものである。或いはマスメディアが指摘しているように、携帯カメラで問題文を撮影し、その映像を外にいる仲間に送り、その仲間があらためてテキスト入力したものをネットに送ったのだろうか。であるなら、最初から「協力者」に問題を解ける能力を有した者を選んでおいた方が確実だったのではないだろうか。

また大学の入試というのは通常、時間いっぱいかけてようやく全問に答えることができる程度に量や内容が設定されているはずだ。まして難関大学で知られた京大の試験である。受験者の大半にとっては時間的余裕はほとんどないであろうに、助けを求めるために相当の時間を費やしているわけで、その辺りの判断も解せない。

そして最大の謎が、それだけの手間暇をかけて手に入れた「回答」をそのまま使うことができない点である。ネット上で試験問題についての質問があり、それに誰かが答えたということは即座に分かることで、その答えを答案用紙にそのまま書けば、自分は不正をしましたと宣言するようなものである。では、回答の一部を借用する形で答案を作ればよいのか。それだけの力があるのなら、ハナから自力で解くだろう。

要は少なからぬコスト(労力)をかけ、多大なリスク(発覚すれば、たとえ合格しても入学できない)を犯しても、結局メリットがまったくないのだ。

しかも、である。上記の質問から6分後に回答としてアップされたのが下記の英文だが、

Problems should be fun to travel abroad is inseparable. For example, a canceled flight, weather and natural disasters that have extended stay abroad is not so uncommon. In any case important to calm the situation, knowledge and information about the area, while making full use of foreign language proficiency in addition, is the attitude of trying to solve the problem before him.

ご覧の通り、「誤訳の山」である。

全文を事細かに分析する気も起きないが、最初のセンテンスを例にあげると、

Problems should be fun to travel abroad is inseparable.

「楽しいはずの海外旅行にもトラブルはつきものだ」の意味でこう書いたのだろうが、これ、英文として成立していない。無理矢理訳せば、「海外旅行にとっての楽しみであるべき問題は分離できない」或いは「分離できない海外旅行にとって、問題は楽しみである」(この部分追記)とでもなるだろうか。もしこの英文をそのままないし参考として答案用紙に書いたとしたら、京大に合格などできるはずもない。

京大以外に、早稲田、立教、同志社の入試問題に関しても類似の行為が行われていたらしいが、その実行者が自分の行為からどんな利益を得たのかがまったく読めない。これは合格したいがための不正ではなく、ある種の愉快犯なのではないだろうか。昔の中国では官僚登用試験の科挙で命がけのカンニングが行われたというが、それに比べ今回の件はどこか軽薄な臭いがする。

来年からは、多くの学校で試験会場への携帯電話持ち込みを禁止し、中には手荷物検査を実施するところも出てくるだろう。大半のまじめな受験生にとってはとんだはた迷惑な事件でもある。

【追記】来年まで待つまでもなく、国立大学などの後期日程で携帯電話の持ち込みを規制する動きが出てきたようだ。また試験中の監視も強化されることになるだろう。おそらくその動きは高校入試や中学入試にも広がって行くに違いない。日本の社会、文化は「お人好し」であるが、これからは性善説に胡坐をかいていられなくなるのだろうか。

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コメント

その辺の新聞より興味深く読ませて頂きました。全くその通り。

投稿: くまくま | 2011年2月28日 (月) 12時33分

くまくまさん

今回の一件、実は「氷山の一角」であり、入試にかかわる「暗部」を
さらけ出すことにもなるような気がしてきました。

本文にも書きましたが、科挙の昔から洋の東西を問わず不正をして
でも合格したいと願う人間はいたわけで、日本のようにそうした人間
を含めたマスに「性善説」で対応するのは無理があるように思えます。
またそうした「性善説」による対応が思わぬ形の思わぬ数の不正を
許していたのかもしれません。

大学や高校、中学の入試のみならず、予備校の模試でもこれからは
携帯電話禁止になるかもしれませんね。

投稿: Jack | 2011年3月 1日 (火) 11時20分

私の周囲は訳文を誰も読んでいなかったので、
偶然こちらの頁を拝読して溜飲が下がる思いでした。
他の問題はもう少しまともな回答もあるようですが、
これは本当にひどいですね。
この人は他に頼む人いなかったんでしょうかねえ。。。

それと、今まで携帯電話が試験に持ち込み禁止ではなかった
ことのほうに、私などは仰天しました。
昔は、小テストでも、鉛筆以外は没収されたものですよ。

投稿: 通りすがりのオバさん | 2011年3月 1日 (火) 15時00分

通りすがりのオバさん

入試の根本的見直しなど、いろいろな意見があるようですが、
とりあえずの対策として考えられるのは、「携帯電話は電源を切り、
机の上に置いておく」というのはどうでしょうかね。
ニュースでは大学入試担当者が「間違えて違う人に返してしまう
恐れや、試験中の保管場所の問題などがあり、携帯をすべて預
かるなんてできない」と言ってましたが、それなら机の上に出して
おくようにすればいいわけです。
もちろん持っている携帯電話すべてが対象であり、もしほかに携
帯電話を隠し持っていたらそれだけで不合格の理由になり得ると
募集要項に明言すればよいのです。
まあ、それでも不正を根絶することは無理でしょうけど、多少は改
善されるのではないでしょうか。

投稿: Jack | 2011年3月 2日 (水) 16時07分

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