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2011年3月17日 (木)

原発事故:冷静に、油断せず、賢明に

Photo昨日、今日と2日続けて出かけた。昨日は徒歩と電車、今日は車を使った。その時の感想を一言でいえば、「デイパックを使う人が増えた」(写真は3月16日、節電のため照明を落とした地下通路で、入場制限がかかっているスーパーへの入店を待つ人の列。この入場制限は程なく解除された)。

私もデイパックにマウンテンパーカー、足元はトレッキングシューズという、いざという時を考えての服装で、小型懐中電灯、ナイフ、スニッカーズ、水、笛と、いつもなら持って歩くことのないアイテムを携行した。

昨日は地元だけだったが、今日はJR横浜駅近辺まで行った。商業ビルや地下街などは若干照明が落としてあったが、そのことを除けば全体として「非常時」という雰囲気はない。唯一食料品を扱う店がどこも陳列棚に品物がない状態だというのが異常といえば異常だろうか。

異常と言えば、ネット、特にブログでの福島第1原発の取り上げ方が異常に思える。総じて多いのが、「政府が言う以上に福島第1原発はやばいのじゃないか」という論調。

今回の事故が深刻なものであることは間違いない。また今後どこまでその深刻度が増していくのかも予断を許さない。ただし、福島第1原発の原子炉が核爆発を起こすことはないといえる。

私は専門家ではないが、ある電力会社の内部資料を翻訳する仕事で原子力発電所のことは人並み以上に勉強したつもりだ。それで言えることは原子力発電所では原子爆弾のような核爆発は起こらないということだ。

ただし別の種類の爆発は起こり得る。その一つが今回1号炉と3号炉の建屋を吹き飛ばした水素爆発であり、もう一つが燃料棒が溶融して水と接触することで発生する水蒸気爆発だ。どちらも起これば、放射性物質が外部に放出されて大きな被害をもたらす可能性はあるが、核爆発ではないので今の避難態勢が維持されている限り、爆発だけで一般住民に犠牲者が出るような事態は考えられない。

また旧ソ連で起きたチェルノブイリ事故を思い起こして、あのような大惨事になるのではないかと懸念する人たちもいるが、チェルノブイリと福島第1原発の原子炉とでは構造がまったく違う。何が違うのか―それは減速材。

原子力発電に主に使われているウラン235が中性子1個を吸収すると物質として非常に不安定になり核分裂を起こすと同時に2個~3個の中性子を放出する。その中性子が別のウラン235に吸収されるとそこでも核分裂が起こり中性子が2個~3個放出され、それが…、というように連鎖反応を起こす。これが短時間に急激に発生するのが核爆発である。一般に、核爆発を引き起こすにはウラン235の濃度が90%以上であることが必要とされている。

原子力発電に使われるウラン235は一般に濃度20%前後と言われている。つまりその数字だけ見ても核爆発が起こる可能性がないことが分かる。さらに、原子炉では「減速材」というものを使って、核分裂で放出される中性子のスピードを落とす措置が講じられる。

チェルノブイリ原発ではその減速材に「黒鉛(炭素)」が使われていた。日本の原子炉ではすべて、減速材に「水」を使っている。「軽水炉」というのは減速材に水を使っていることに由来する原子炉の種別名である。

チェルノブイリの場合は人為的ミスなども加わって、(諸説あるが)水蒸気爆発と水素爆発を起こして原子炉が破壊され、さらに燃料の崩壊熱で減速材(炭素)に「着火」して爆発的燃焼を起こし、放射性物質が大量に放出され、それが被害を甚大なものにした大きな要因だったと言われている。福島第1原発にはそもそもその炭素がないのだから爆発燃焼を起こしようがない。もちろん水素爆発や水蒸気爆発の可能性はある。なので、現在懸命に冷却措置が講じられているわけである。

ここで気になるのが水蒸気爆発が起きた場合の被害規模だが、その点についてはいろいろ調べたが分からない。或いは専門家にもその点は分からないのかも知れない(ただし繰り返しになるが、核爆発ほどの破壊力がないことは断言できる)。とはいえ、福島第1原発の近隣の人たちが被害を受けることは避けられないだろう。そのような事態が起きないことを切に願うしかない。

核の安全と言えば、IAEA(国際原子力機関:事務局長天野之弥)が知られているが、この国際的監視機関がこれまでに発表した福島第1原発関連の記事を見ると、多くが「Based on a press release from the Japanese Chief Cabinet Secretary ・・・(内閣官房長官の発表によると…)」など、日本発の情報を基に書かれたものであることを表明しているが、これは公正かつ適切な態度だろう。

現時点で福島第1原発に関しては日本の政府(または東京電力)が最新かつ最も詳しい情報を持っている。その点については世界中の如何なる研究機関も専門家もかなわない。そうした事実を踏まえた上で、IAEAはこうした表現を取っているのである。つまり、今情報源として最も頼るべきは日本国政府であり東京電力だと認めているのだ。

そしてその日本国政府と東京電力の言動は世界中の原子力安全の専門家たちの厳しい監視下にある。その事実を踏まえ、政府・東電の発表を注意深く見守り、万一の場合に対する出来得る限りの(心の準備を含めた)備えを怠らない―それが今我々一般人にできる最善の対処法ではないだろうか。

ネット上にあふれる不安を煽るような情報発信については、そうした情報の根拠をよく吟味してほしいということだ。海外の研究機関や政府要人の発言などを引用している場合も見かけるが、そうした機関や要人といえど、情報の質・量では当事者である日本の政府・東電には及ばない。必ずそこには「推測」ないし「憶測」が混じっているはずだ。

冷静に、と言って油断せず、備えを怠らない―賢明なる行動、皆さんに是非お願いしたいことである。

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コメント

Jackさん、NHKのコメンテーターになって下さい。

「冷静に、油断せずに、賢明に…」それが今最も求められていることだと思います。

実は地震のあった日日本に来る予定でした。10時間フライトが遅延されましたが、翌日の夜には日本に着け、しかももう電車が動いていることにさすが日本と思ったものです(全て各駅電車でしたが)。
でも最初に知ったニュースが原発での水素爆発で、震撼としました。

避難、退避の範囲についてアメリカやその他の国と差があるようですね。各国大使館は自国民に80km圏外退避、あるいは出国を勧告しているみたいです。成田は外国人の出国で混み合っているとか。
いずれにせよ、日本人も外国人も少々集団的ヒステリー状態であるのは確か。「冷静に、油断せず、賢明に」ですよね。

海外から来ると、日本人というのは本当に感情をあらわにしない、あるいは出来ない人種だなぁと感じます。それがひどくストイックに映る…のかなと。

投稿: billabong | 2011年3月18日 (金) 08時59分

billabongさん

そうですか、日本にいらっしゃってるのですか。余震には十分注意してください。

ところで各国の対応ですが、視点を変えて、外国で今回のような大災害が
起きたら、おそらく日本の政府も在外邦人に対して国外への退避をアドバイス
するでしょう。ま、欧米をはじめとする各国の対応は至極当然のものであると
思います。

退避し、帰る国のない我々には選択肢がないわけで、ここに踏みとどまって
「がんばろう、日本!」の心意気で苦難を乗り切るしかありません。いや、
きっと乗り切って見せますよ^^V

投稿: Jack | 2011年3月18日 (金) 17時12分

billabongさん、日本にいらっしゃるのですね。オセアニアでもこのところ自然災害がありましたので、どのようにしていらっしゃるかと。。。

Jackさん、
首都圏にいる友人から、原発のことが心配で、でも避難するにしてもどこに・・・
と不安でしようがない気持ちを書いたメールが来ました。先にこちらに投稿させていただいたサイトと、Jackさんのこの日の日記を紹介させていただきました。外国政府が用意したチャーター便が来たり、周りに関西方面に帰省したりする人がいて不安が掻き立てられた模様ですが、勤務先周辺を観察し、Jackさんの記事を読んで、「頭のいい人が分かりやすく書いてくれていて理解できた」と落ち着いたようです。タイミングもよかったです。ありがとうございました。

各国の対応は、Jackさんが仰るように、妥当だと思います。日本の外務省も同じような対応を今までしてきましたから。それに、本当に危ない場合は、日本政府だって軍用機でも何でも使って国民を脱出させているでしょう。
まだ余震が続いていると聞いています。疲れ過ぎない程度にお気をつけて。

投稿: pompon | 2011年3月19日 (土) 08時54分

Hello Jack,

very good planning. I carry in addition identification, credit card, mobile phone, cash (ATMs might not work) and a book. We might add woolen cap.

The high calory bars last for 2 days.

Billabongtwo

投稿: billabong 2 | 2011年3月23日 (水) 00時10分

Pomponさん、ご心配頂いていたようで, この場をお借りしてお礼申し上げます。私はオーストラリアの西海岸に住むので、洪水の被害には合わないどころか、反対に雨不足に悩まされています。

Jackさん、パワーバーは我が家の「買出し」族が日本に50本くらい持って来てくれました。お裾分けしたいです。

投稿: billabong | 2011年3月23日 (水) 00時26分

Billabongtwo-san

Thank you for your compliment.
But one drawback of Snickers is that it cannot last for that long! Why?
You can't forget it's in your bag, especially when you get hungry. See?

投稿: Jack | 2011年3月23日 (水) 13時23分

billabongさん

>Jackさん、パワーバーは我が家の「買出し」族が日本に50本くらい持って来て
>くれました。

それは安心ですね。Twoさんの計算によれば、50×2days÷2人=50days持ちますよ!

我が家の娘たちは「スニッカーズを1本ずつ持って歩きなさい」と伝えると、「Soyjoy
じゃダメだよね?」。Soyjoyってダイエット志向の携行食品で低カロリーが売りなんです^^;

投稿: Jack | 2011年3月23日 (水) 13時30分

Howdy Jack.

The answer is : disciplin. One bite per hour and make it a small bite.....You can also take 4 snikers along. And the high calory bars I use taste very bad. So I don,t like them.

We bought our whistles today.

I forgot to mention a pen plus a note pad and a small radio.

If you really go overboard you add a light one man tent of 650 grams.

And before you die write a poem.....Make it a Haiku.

Billabong has a much better solution: stay in bed and pull the bedspread over your head......


Billabongtwo

投稿: billabongtwo | 2011年3月23日 (水) 20時29分

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