« 軽薄な不正:京大入試問題の漏洩 | トップページ | 将棋:第69期A級成績順位表 【9回戦】 »

2011年3月 1日 (火)

Watsonの優勝と「理解」

先月、アメリカのクイズ番組「Jeopardy!」で、IBMが造ったシステム「Watson」が同番組史上最高記録を有する二人のチャンピオン(一人は連続正解数、もう一人は獲得賞金額)を下して優勝した。

「Watson」が「Jeopardy!」に出るという話題は昨年10月にこのブログで取り上げたが、その後折あるごとに「Watson」がどのようにして自然言語を「理解する」のかを調べてみたが、結局分からなかった。公開できない企業秘密が少なからずあるようで、IBMのサイトにあるQAコーナーでも「どうやって自然言語を理解しているのか」といった類の質問は取り上げていないようだ。

ところでこの「Jeopardy!」には一つ特徴があって、解答者は「解答を答えるのではなく、質問を答える」ことになっている。

たとえば、今回出題された中に「Milorad Cavic almost upset this man’s perfect 2008 Olympics, losing to him by one hundredth of a second.」(ミロラド・カビッチは100分の1秒差で敗れ、この人物の2008年オリンピック大会における全勝を阻みそこねた。)という問題があった。この文は通常の意味で言えば「解答」であり、これに対してWatsonは「Who is Michael Phelps?」(マイケル・フェルプスとは誰か)と「質問」を発する形で答えた。

つまり、問題を理解し→答を探し出し→それを疑問文に仕上げる、という操作を行っていて、最後の疑問文が間違っていれば得点できない。よくあるミスは「What is Michael Phelps?」と疑問詞の選択を誤るものらしい。問題の主題が人間であることを「理解」していなければ不可能な対応である。

「コンピュータと理解」ということでは「チューリング・テスト」が知られている。

■人間の判定者が、一人の人間と一台の機械に対して通常の言語で会話を行う。このとき人間と機械とを確実に区別できなければ、その機械はテストに合格したことになる。

というものだが、この場合機械が果たして会話を「理解していたのかどうか」は分からないし、また合格の要件ではない。

一方で「Chinese Room」という思考実験があり、それによると、たとえ言葉を理解できなくても、一見すると理解しているように見える場合があることが示されている。

■隔離された部屋に中国語を理解できない人を入れ、外部とはメモだけで連絡を取ることにする。
外からメモが差し入れられ、そこには中国語(漢字)が書かれている。部屋の中の人物は漢字を読めない。ただし部屋の中には作業指示書があり、メモに「你好」と書かれていたら、「初次见面」と書いて返すようになど、詳細具体的な指示が記されている。
作業指示書は完璧で、外から差し入れられるメモにある文面をすべて網羅してある。因って作業指示書に忠実に従って返事をすれば、外にいる人たちは部屋の中にいる人間が中国語を解する人だと考える。

これはまさに今までのコンピュータである。部屋の中の人物はプログラムに従って動くCPUであり、彼は決して中国語を理解しているわけではない。今までのコンピュータも問題を理解しているのではなく、決められた手順(プログラム)に従って「処理」しているにすぎない。無論、この方法であれば言語は中国語でも、ギリシャ語でも、日本語でも(表記するための文字が存在するのであれば)なんでもいいわけだ。

ではWatsonは…。「Jeopardy!」を見た限りでは、Watsonはコンピュータとは違い英語を理解しているようにしか思えないのだが、先ほども書いたようにWatsonにおける「理解」の内実が公表されていないため、本当のところは謎のままである。

Watsonに代表されるIBMのプロジェクトは「DeepQA」(QAはQuestion Answeringの略)と呼ばれており、将来は「診断システム」などへの応用を検討しているという。確かに、「熱がある」、「お腹が痛い」、「せきが出る」といった患者の訴えから何の病気かを判断するには、Watsonのようなシステムは適しているだろう。ほかにも応用分野は数え切れないほどありそうだ。

果たしてWatsonはこの後再び我々の前に姿を現すのか、それとも次にお目にかかるのは製品としてなのか。できればもう一度ぐらい人間に伍して何かにチャレンジしてほしい気がする。

|

« 軽薄な不正:京大入試問題の漏洩 | トップページ | 将棋:第69期A級成績順位表 【9回戦】 »

その他」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/220529/51008673

この記事へのトラックバック一覧です: Watsonの優勝と「理解」:

« 軽薄な不正:京大入試問題の漏洩 | トップページ | 将棋:第69期A級成績順位表 【9回戦】 »