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2011年5月 6日 (金)

素朴な疑問:池田氏の主張に関連して

管総理大臣が中部電力浜岡原子力発電所に関して、全原子炉の一時停止を要請した(参考)。

中部電力浜岡原子力発電所は静岡県御前崎市にあり、5基ある原子炉の内、1号機と2号機は既に廃炉行程に入っており、3号機は点検のため停止中で、動いているのは4号機と5号機だけである(2機を合わせて発電能力は約250万kW)。

政府の要請は、その稼働中の4号機、5号機も停止せよということであり、その期間は防潮堤の建設など中長期的対策が施されるまでとなっている。

写真で見る限りでは、福島第一原発に比べると設置箇所の海抜は数メートル以上高そうだが、沿岸に防潮堤のような施設は見当たらない。

今回の政府の要請については、おおむね妥当だろうというのが私の第一印象だったが、原発擁護の立場にある人たちからは早速反論の声が上がっている。

その中で、以前からブログやツィッターでその主張を拝聴してきた池田信夫氏が、“浜岡原発の「停止要請」は非科学的だ”と批判しているが、それを読んで気になったことがあるので記しておくことにする。

まず、池田氏は今回の原発事故の経緯を次のように要約している。

今までに判明している福島第一原発の事故の経緯は、次のようなものだ:
 1.地震によって原子炉は緊急停止し、核燃料の連鎖反応は止まった
 2.受電鉄塔が倒壊して外部電源が供給できず、ECCSが作動しなかった
  3.予備電源が津波で浸水して給水ポンプが作動しなかった
  4.原子炉(GE製)の電圧が440Vで、電源車と電圧が合わなかった

氏も記されているように、上記は現段階で分かっている経緯(=事故発生の理由)である。言い換えるなら、原子炉建屋に人が入れるかどうかという現状では、まだ判明していない原因が存在することは否定できない。これまでの経緯を振り返ると、我々のようにマスメディアを主な情報源としなければならない者には、この「未だ見えていない部分」というのがことのほか大きいのではないかという懸念を拭い去ることができない。

上記の後には次の文が続く。

浜岡が危険だといわれたのは、東海地震の震源の真上にあって、原子炉が地震で破壊される(あるいは制御できなくなって暴走する)のではないかということだったが、これについては東海地震で想定されているよりはるかに大きな今回の地震で、福島第一の原子炉は無事に止まった。浜岡も国の安全審査では、東海地震に耐えられる(これは首相も問題にしていない)。

ここに私は「素朴な疑問」を感じるのだ。

その第一は、想定されている東海地震は浜岡原発にとっては「直下型」になるおそれがあり、その際の震度は福島第一原発での震度を上回る可能性があるのではないかということである。この点については、福島第一原発における震度の詳細が分からない今、簡単には断じられないのではないだろうか。それともその点に関しては、たとえば福島第一原発の各建屋ごとにどの程度の加速度(ガル)がかかったのかといったデータがあるのだろうか。

また、これまでは「原子炉が地震で破壊される」ことだけを心配してきたのだろうが、今回の地震で、津波のことも考えねばならないことを学んだがゆえの政府の要請となったのではないだろうか。単純に言えば、「浜岡原発が今のままで、想定外の津波に耐えられるのか」という疑問に、「大丈夫だ」と言えないがゆえの要請なのではないだろうか。

次に疑問を感じたのが、

東海地震で想定されているよりはるかに大きな今回の地震で、福島第一の原子炉は無事に止まった。

という箇所。東海地震の想定規模は一応「M8」とされており、単純に言えばM9だった今回の地震の約32分の1である。が、地震の被害はマグニチュードだけで決まるわけではなく、震源からの距離や地形、地下構造(活断層の有無や震源と同じプレート上か否か)など、複数の要因が複雑にかかわってくる。

また今回の大地震も、M9までの大きなものになるとは想定されていなかったのではないか。

池田氏は上記4つの要因中、3と4は福島第一原発固有の問題であり、浜岡原発には当てはまらないとのことだが、では浜岡原発固有の問題である、「想定震源域の中にある」(=地震が直下型になり得る)、「直下に活断層が存在する可能性がある」という点は、被害規模に関係しないのだろうか。さらに、それ以外に被害を引き起こし或いは拡大するリスクは浜岡原発に存在しないのだろうか。

事故の原因は予備電源を浸水しやすいタービン建屋の中に置いたという単純な設計ミスだったことがわかるはずだ。

くどいようだが、福島第一原発の事故の原因は本当にこれだけなのだろうか。もしそうなら、私も池田氏の主張を否定しない。が、想定の甘さが各所で露呈してきたこれまでの経緯を思うと、予備電源の安全を確保するだけで万全なのかという不安はぬぐえない。未だ事故の全容は明らかになっていないと思えるからだ。不明な点がある今、不明なことについては悪い方に想定して対策を講じるべきではないか。たとえその結果、国民生活や経済活動に支障を来たすようなことがあってもである。

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コメント

池田信夫という人に、私はある意味で敬服しています。それは、自分を経済学者として律し、その範囲で責任をもって発言しているから。それだけでも、科学者とは言えない言動を繰り返す御用学者や、リーダーシップをまったく発揮できない政治屋より何倍もいいと思っています。

だから、経済学者としての彼の発言にはやはり重みがあるでしょう。ただ、経済学というものの限界がすなわち彼の限界です(ご想像できるとおり、私は経済学というものをまるで信用していません)。彼が数値をあげてものを言うとき、前回のこちらのエントリ「理不尽なリスク追加」にお書きだったような要因をまったく無視しているのも、経済学の範疇での発言だからですね。たとえば事故による死者を数えるときも、それが原発作業員だったときと、何の義務も責任も持たない一般市民(特に子ども)だったときを、同じように「1人」と数えられるものかどうか、という議論はあるはずですが、経済学者にとっては「1人」という数字にすぎない。

今回の浜岡について彼が「非科学的」と言うのも、「経済学は科学」といういかがわしい常識と同レベルだと思いながら読みました。私自身は、今回の停止要請について、首相の "パフォーマンス" とまでは言わないものの、安全性云々より政治的な駆け引きの要素をどうしても感じてしまいます。

そう思いながらコメントを書いていたら、小飼弾氏もこの件でブログを書いてました。
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51677615.html
こちらのほうが池田氏より納得できます。

投稿: baldhatter | 2011年5月 7日 (土) 12時41分

>私は経済学というものをまるで信用していません

それは手厳しい^^ 
ところで今回の原発事故に関しては、まだ「分かった部分」があまりに
少ないのではないかというのが考えの根本にあります。
なので今はたとえ「羹に懲りて膾を吹く」ことになってもやむを得ない
と考える次第です。
したがって、福島第一原発の状態を落ち着かせ、1日も早く本格的な
調査を開始することが極めて重要であるとも思っています。

投稿: Jack | 2011年5月 7日 (土) 23時51分

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