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2011年7月18日 (月)

サッカーW杯優勝:なでしこジャパン

大変な偉業である。

ドイツで開催されたFIFA女子ワールドカップ・ドイツ2011で、日本代表チームなでしこジャパンがアメリカをPK戦の末にやぶり世界チャンピオンとなった。日本のサッカーでは男女を通じて初の偉業であり、日本女子が団体競技(球技)の世界的な大会で優勝したのはバレーボール(1964年東京五輪、1976年モントリオール五輪)、ソフトボール(2008年北京五輪)に次いで4度目。

正直に言って、今回の試合もサッカーではアメリカに負けていた。ディフェンス・ラインを高く保って中盤のスペースを消し日本のパス・サッカーを封じる一方で、スピード、体格でまさるというアドバンテージを活かし、なおかつパス回しも積極的に展開してきたアメリカに、前半を終わった段階では日本がつけ入る隙が見当たらなかった。

アメリカというと豪快なサッカーのイメージがあるが、今回のチームにはそこに「小技」を加味できるオプションもあった。それがMFメガン・ラピノ選手(背番号15)である。体はそれほど大きくなくてもスピードと技術(そして小さいとはいえ、日本人の基準からすれば大型といえる体格)を備えているプレーヤーの方が日本には厄介な存在になることが多い。譬えが少々不適切かもしれないが、映画『ジュラシックパーク』に描かれていたように人間にとっては大型のティラノザウルスも恐ろしいが、実はそれよりはるかに小型のベロキラプトルの方が危険であるようなものである。

ラピノ選手は準決勝の対フランス戦で後半から投入されたが、その結果アメリカ・チームの中盤が活性化され、それまでフランスに圧倒されていた中盤の戦いで互角以上に渡り合えるようになった。また、きわめて確実なプレーをする選手であり、フランス戦でも再三チャンスメイクに絡んでいた。

それともう1人、アレックス・モーガン(背番号13)という選手。彼女の特長はスピード。とにかく速く、しかも(日本人プレーヤーに比べれば)大きい(身長170cm)。日本はこれまで、こういう「突進型」のプレーヤーに手を焼いてきた。テクニック云々ではなく、とにかく前へ前へと突き進んでくる。体をはって止めるしかないのだが体格でも向こうの方がまさっているため、ファウルを犯さざるを得ずフリーキックを与える結果になることが多い。

準決勝までの試合を見て、「この2人が出てきたら厄介なことになりそうだ」というのが私の印象だったのだが、そのラピノは先発で、モーガンは後半から登場してきた。この2人がそろった後半、アメリカの先取点が生まれる。自陣ゴール前で日本のFW永里優季選手(背番号17)からボールを奪ったアメリカはすかさずラピノがロングパスを蹴る。単騎、日本陣内に残っていたモーガンが快足を飛ばしてDFラインを突破し、そのままゴール右隅に豪快なシュートをたたき込んだ(後半24分)。

今回日本の最大の勝因は「諦めなかったこと」、これに尽きると思う。試合後のインタビューでキャプテンMF沢穂希選手(背番号10)は、「アメリカと戦う時、いつもならゴールを決められると“あー”って思ってしまうけど、今日だけは違って“まだ大丈夫”って感じた。だからみんなにも“大丈夫、まだいける”って声をかけた」と応えていたが、確かにチーム全体の士気は落ちなかった。

失点から12分後、日本はロングパスをカットされるも、直後にFW川澄奈穂美選手(背番号9)が敵のパスを奪い返し、すぐに前方にいた永里にパス。敵陣右サイドに入りこんだ永里がゴール前のFW丸山桂里奈選手(背番号18)めがけて鋭いクロスを送ると、丸山は相手DFともつれ体勢を崩しながらもボールに触る。こぼれたボールをDFがクリアしようとしたがミスキック。そこにMF宮間あや選手(背番号8)が走り込み、体を投げ出すと足先だけでシュート。それが相手GKの逆を取る形になり見事ゴール。同点とする(後半36分)。

試合は1-1のまま延長戦へ。その延長前半14分、スローインからの流れで、モーガンが日本陣の右サイドに深く切れ込みゴールラインぎりぎりの位置からクロスを放つ。それまで相手のストライカー、アビー・ワンバク選手(背番号20)を抑え続けてきたDF熊谷紗希選手(背番号4)がその瞬間だけマークを外されてしまう。ボールはそのワンバクの頭にピンポイントで届く。ワンバクは頭を振る必要もなく、易々とゴールを決めた。

テレビを観ていた日本中のファンの大半が、これで勝敗は決したと思っただろう。かく言う私も「こりゃ、ちょっと厳しいなあ」と思った。だがそう思っていなかった人間が少なくとも11人いた。

延長も後半に入る。接触があってアメリカのGKホープ・ソロ選手(背番号1)が傷む。その治療の間、宮間と沢が話し合うチャンスを得る。宮間は「ニアに蹴る」と言い残してコーナーフラッグのところに走って行った。治療が終わり、プレー再開。宮間は言葉通り、コーナーキックをニアに向けて鋭く蹴る。そこへ沢が走り込み、足先で触れるとボールのコースがわずかに変わり、そのままネットへ。日本は土壇場で追いついた(延長後半12分)。

そして試合はそのままPK戦に突入。アメリカが1人目と3人目をGK海堀あゆみ選手(背番号21)に止められ、2人目も外したのに対し、日本は1人目、2人目が成功。3人目は止められたものの、4人目が決めれば勝ちが決まるという状況になった。

PK戦で蹴る順番は一般に信頼できる順に1番目、2番目、3番目……と並べる監督と、1番目、3番目、5番目に中核となる選手を配する監督がいるという。日本の佐々木則夫監督はどうやら後者のようだ。キャプテン沢は3番目までに入っておらずおそらく5番目を任されていたのだろう。で、4番目はDF熊谷だった。

テレビの画面に大きく映し出された熊谷の顔は不思議と悲しそうな表情に見えた。その熊谷が天を仰ぎ、ゆっくりと助走を始め足を振ると、ボールは直線を描いてゴールに突き刺さる。見事、日本が優勝を決めた。

Photo

サッカーの試合として見た場合、非常に面白い試合だった。だが、日本サイドの視点で見ると、まだアメリカとの実力差を認めざるを得ない内容だった。特に(スピード×体格の積としての)「パワー」という点では(昔から言われ続けてきたことだが)圧倒的な差がある。この試合のゴールだけを見ても、その点が象徴的に表れていた。豪快に決めたアメリカに対し、日本はまさに足首から先のテクニックによる得点だった。ことに1点目は、両足を自由に使える宮間だからできたプレーで、他の右利きプレーヤーだったら決められなかった公算大である。

「パワー対テクニック」というのは日本が世界(欧米)の強豪と戦う時の典型的図式であるが、今回はこれに「闘志」と「スタミナ」が加わったことで日本は優勝を勝ち取ることができた。だが、試合は“引き分け”だったという事実は看過してはならない。おそらく1カ月後が五輪の決勝で、再びアメリカと対戦したら九分九厘勝ち目はないだろう。また、アジアのライバルたちはこれまで以上に、世界の強豪もあらためて、日本を研究し立ち向かってくるはずだ。

チャンピオンになるということは“追いかけられる立場”になるということである。頂点とは文字通り“点”であり、周囲はすべて“下り坂”である。頂点には留まることはできない。そこには再び挑むことでしか到達できない。勝利の喜び、余韻にしばらく浸ったら、また元の挑戦者に戻り、次の目標に向かって“登り”始めてほしい。

なでしこジャパン、おめでとう。素晴らしい試合をみせてくれてありがとう。

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コメント

本当に素晴らしい結果になりましたね。こちらでも放送された2時から5時の間に起きることまではできず、DVDに録音していたのですが、120分しかレコーディングできず最後の部分が欠落してしまいました。
120分で終わるだろうと思ったところもあります・・・
朝一のニュースで優勝と知りびっくり。しかもPK合戦だったと。すごい試合だったんですね。PKでは日本のゴールキーパーが2本止めたというので、最終スコアが3-1になった課程を知りたかったんです。Jackさんの説明で良く解りました。これですっきりしました。
やはり頑張って起きればよかったと思いました。一人で夜中にドキドキして辛かったかもしれませんが・・・

投稿: billabong | 2011年7月19日 (火) 16時09分

Jackさんのブログで、決勝戦に進んだことは知っていましたが、試合がいつあるのかも知らず、たまたま訪問した友人が宿泊しているホテルでついていたテレビに映っていたのが、この試合でした。その時点で0-1USで、同点に追いつき、延長戦、最後は(アメリカ選手のボールを止めた)「ゴールキーパーさん、えらい!」って。カナダ人はそうでもないのですが、週末はフランス人に囲まれていたこともあって、「おめでとう」ってよく言われました。対戦相手だった合衆国の新聞に称えられるのは、余計にうれしいことですね。

投稿: pompon | 2011年7月20日 (水) 12時38分

billabongさん、pomponさん

3月の大震災以後、どうにも暗い話し、殺伐した出来事ばかり目につく
状況があり、自分のブログもとげとげしい内容になっていくような気が
して憂鬱でした。
それが今度ばかりは手放しで喜べる出来事で、多少気持ちも盛り返して
きたような気がします。
もちろん、日本女子サッカー界もこれですべてが順調に行くわけでは
なく、却って重荷を背負ってしまったという懸念もあるにはあるのですが、
先ずはともあれ快挙を喜び祝いたいと思います。
また秋からの男女のロンドン五輪予選が俄然楽しみになってきました。

投稿: Jack | 2011年7月21日 (木) 00時51分

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