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2011年12月16日 (金)

赤い長靴

師走の慌ただしさが好きだ。

以前は苦にならなかった人混みがこの頃は少々苦手になってきて、人の多い場所に行って帰ってくると疲れを覚える。が、この時期は出かけても―疲れるのは確かだが―街中を歩くことが楽しい。

1年でこの時期だけは誰もが同じ雰囲気の中にいる。クリスマス、年の瀬、お正月……一歩ずつ近付くイベントに浮き立つ気持ちと、1年が過ぎ去ってゆくという事実を前に感じる焦燥、反省、充足などがない交ぜになって、そこに歳末商戦を煽る声、繰り返し流れるクリスマス・ソングなどの音が加わり12月ならではの時が流れる。

あれは5歳ぐらいの頃だったろう、母に連れられて買い物に行った。小さな駅前からのびる商店街。狭い道の両脇には商店が軒を連ね、威勢のいい掛け声が客を呼び込む。

八百屋、魚屋、小さなスーパー、雑貨屋、そば屋、衣料品店、食堂……飾り付けの華やかな色と食欲をそそる匂いなどが今も思い出される。が、子供だった私の目に映るのは、おもちゃ屋の店先に並ぶロボットやクルマ、戦車。お菓子屋の店頭に置かれた、お菓子を詰めた赤い長靴もほしいものの一つだった。だが我が家は貧しかったので、どれも見るだけでおしまい。

買ってもらえなかったその頃の記憶は今でもはっきりと残っているが、いつの頃からだろう、その買ってもらえなかったということが年の瀬にまつわる大切な思い出になっていった。なので12月になって赤い長靴やおもちゃを見ると、母と歩いた商店街の光景が鮮明によみがえってくる。

買い物の最後は……ケーキ屋。母としては大奮発だっただろう、小さなデコレーションケーキ(あの頃はこう呼んでいて、「クリスマスケーキ」という呼び方が一般的になったのは後年になってからのことだったと思う)を買ってもらった時は本当にうれしくて、「クリスマスっていいもんだな」と人生で初めて「クリスマスの意義」を認識した時でもあった(お菓子入りの長靴を買えないのに、それより高いケーキを買うのはおかしい? 当時の我が家は5人家族(母、伯母、姉、兄、私)で、小さいながらもケーキであれば家族全員がクリスマスを味わうことができた故の選択だったのだと思う)。そう、12月は私にとって「思い出の甘さとほろ苦さ」を味わせてくれ、小さな子どもであった自分を遠く思い出すことのできる季節なのだ。

ここ数年、子どもたちにあの赤い長靴を買ってプレゼントしている。子どもがほしがるものを買ってあげられないことで心を痛めたこともあっただろう母に代って私が、私の代りである子どもたちにプレゼントすることで、多少とも(生前には大してできなかった)親孝行の代りになるのではないか……むろん子どもたちにその真意は分からないし、大して喜びもしないのだが。

来週、赤い長靴を買いに行くことにしよう。

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コメント

小さい頃のことは親に確認しないとわかりませんが、クリスマスの赤い靴をおねだりした記憶がありません。今ほどではありませんが、Jackさんの時代より私の幼少時代の方が物が多かったと思います。たぶん、他の物に気を取られていたのでしょう。今、日本の外に住んで思うのは、あのお菓子が詰まった赤い靴は日本のものですね。あんな靴は売ってないです。今回、7歳と5歳の子供さんがいるお母さんからお土産を頼まれましたが、「日本らしいもの」として、親に買っておいてくれるように頼みました(もちろん、クリスマス後に値段が下がってから・・・ですが)。あの靴の出所はどこでしょう。こちらでは手編みの靴下の方が、値段が張ります。お菓子は入ってないです。今の赤い長靴はお菓子屋さんの仕業でしょうか。あの小さい赤い靴がかわいくて欲しいと思うようになったのは大人になってからです。(* ̄ー ̄*)

投稿: pompon | 2011年12月18日 (日) 01時32分

なんかとてもいいお話です。
どこの国にいても、12月という月は「焦燥、反省、充足」感が、まるでジャグラーの手玉の様に綯交ぜでぽんぽんと醸し出されますね。
これはやはり子供のころからの記憶がベースになっているのでしょう。
大人にどんどんとなって行く子供達も、赤い靴に込められているJackさんの気持ちを何十年後かにきっと思い出してくれると思います。
今年の夏亡くなった父が、北海道に住んでいた頃、その辺の山にあった木を切ってもらいクリスマスツリーをえっこらと家に持ってきたことを思い出します(要求された手間賃はわずかだったと母が言ったのを覚えています)。父は、植木鉢ではなく、四角い箱を作り銀紙を貼って土を入れた後、木を立ててくれました。
クリスマスツリーの飾りはどうしたのか覚えていませんが、本物の木のクリスマスツリーが出来上がったことは覚えています。
12月はやはり特別な月ですね。

投稿: billabong | 2011年12月20日 (火) 22時55分

pomponさん

>あのお菓子が詰まった赤い靴は日本のものですね

そうなんですか。戦後、進駐軍で来たアメリカの影響かなと
思っていたんですが、少なくともカナダにはないってこと
で、きっと喜ばれますよ。

billabongさん

お父様がお亡くなりになったとのこと、ご冥福をお祈り申し上げます。

>12月はやはり特別な月ですね

1年の12カ月にはそれぞれ個性がありますが、1月と並んで12月は
「キャラの濃い」月でしょうね。はじめとおわりの月ですから当然と
いえば当然ですが、忘れられない出来事がたくさんあります。

>本物の木のクリスマスツリー

それは素晴らしい。最近は年齢のせいか、思い出の価値というものが
殊更大きく感じられ、親としては子どもたちが将来思い出として記憶の
底から引っ張り出してこられるような何かを残せたらいいなという
思いを持つようになってきました。

投稿: Jack | 2011年12月21日 (水) 14時14分

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